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パレスチナ:ナブルスからの証言1 ―精神科医の報告―「臨床心理ケアを提供しているのはMSFだけです」

2010年05月10日掲載

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パレスチナ

パレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区の町ナブルスで、住民たちは新たな形の暴力に苦しめられています。以下は、現地の国境なき医師団(MSF)のプログラムで活動する精神科医ルース・ウルリッヒから届いた2009年7月の報告です。


暴力が日常茶飯事になっている

紛争が、この地の人びとに心理的な影響を強く与えています。人びとは数多くの暴力行為に直面しているのです。特に難民キャンプでは、イスラエル軍の兵士たちが夜中の1時から2時頃に捜査にやってきて、ドアをノックしたり、無理やり家に押し入ったりします。兵士たちはかなり友好的で礼儀正しい場合もあれば、そうでない場合もあります。時には家をめちゃくちゃにすることもあり、家族を目の前で殺される人びともいます。しかし、こちらから問いかけない限り、彼らの方からこうした体験を語ることはありません。残念なことに、このあたりではこうした体験が日常茶飯事となっているからです。

子どもたちは常に怯えており、夜尿症や不眠に悩まされている子どもが大勢います。今年に入ってから状況はやや落ち着き、拘留の件数は減りましたが、兵士たちはいっそう神経質になっています。検問所が町を取り巻き、往来が遮られています。人びとは通過させてもらえなかったり、あるいは何時間も待たされたりします。これも嫌がらせの一種です。医療機関に向かう交通も妨げられているため、MSFは大きな役割を果たしています。

ナブルスに特有なもう1つの暴力の形として、イスラエル人入植地の存在が挙げられます。入植者たちはイスラエル軍に守られながら時々町へ祈りに来ます。問題が起こるのは主に入植地の周囲にある村です。入植者たちは暴力的で武装しており、その行動は予測できません。軍には規律がありますが、入植者にはそれがないのです。

無償で医療を提供

MSFの医師によるグループ・セッションの様子
MSFの医師によるグループ・セッションの様子

ナブルスには精神科医もいますし、「SOS子どもの村」など、現地の援助団体が心理社会的カウンセリングを提供し、リハビリ・センターも運営しています。しかし、紛争に関連する暴力の被害者に臨床心理ケアを提供している団体はMSFだけです。さらに、MSFが提供している心理ケアは診療も含めてすべて無料です。治療費も交通費もMSFが負担します。午後3時以降も開いていて、仕事を持つ人びとを診察できるのもMSFだけです。

大事なのは患者の声に耳を傾けること

患者の主な症状は不眠、神経過敏状態、感情コントロール低下、不安感、フラッシュバック、無力症、抑うつ、外傷後症候群などです。子どもたちには夜尿症や学校での問題行動、中途退学といった特有の症状が見られます。彼らは家に引きこもってパソコンに熱中したり、サイバーカフェに行って戦争ゲームをしたりしています。彼らは武器に囲まれて暮らしており、絵を描かせると銃撃や爆撃の場面がよく出てきます。MSFでは、子どもたちの不安感を埋め合わせるために、気晴らしになり想像力を働かせる課題を利用しています。一方、女性たちは、このように調子の悪い子どもの面倒を見なければならない状況にありながら、自分の世話をしてくれる人は誰もいません。彼女たちは大きな重圧を背負っており、私のところに来るのも子どものためである場合がほとんどです。男性が診察を受けにくることはあまりなく、接触するのは簡単ではありません。私の患者のうち40%が子ども、40%が成人女性、20%が成人男性です。

MSFは患者の声に耳を傾けています。これは非常に重要なことです。また、すべてにわたって信頼関係が欠如しているナブルスのような場所では、秘密の保持も非常に重要です。私たちが外国人であるという事実は、患者に安心感を与えています。慢性的に暴力行為が続く状況で短期間の心理療法を行うことは難しいのですが、それでも良い結果が出ています。特に、神経過敏状態に対しては効果が表れています。しかし、不安定な情勢にあり疑念が渦巻く現状では、大人や若者にはグループ・セッションではなく、個別のカウンセリングしか提供できません。

MSFがこの地でなすべきことは、まだまだたくさんあります。まず、さらに多くの男性にも接触する必要があります。彼らは「強い」と思われたいので、心の中の怯えや、自分の感情を完全にコントロールできない姿を人に見せたがらないのです。そのうえ、精神科医の診察を受けることは、彼らにとって非常に不名誉なことなのです。他にも、子どもを対象とした活動を今以上に行う必要もあります。例えばグループを作って心理療法のためのゲームを行い、フラストレーションを取り除くと同時に仲間同士で話ができるようにする、といったことです。子どもたちの気が晴れれば母親たちの気分も良くなり、日常的に直面する困難による苦しみも軽減することができるでしょう。

ニュース ― ヨルダン川西岸地区 ナブルスにおける新たな暴力の形

ナブルスからの証言2 ― パレスチナ人ソーシャルワーカーの報告―「パンしか食べられないこともよくあります」

ナブルスからの証言3 ― ある家族の話「そっとしておいてほしい、願いはそれだけです」

ナブルスからの証言4 ― ある家族の話「私たちは逃げられない。耐えるしかないのです」

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