パプアニューギニア:暴力の体験を語り始めた被害者
2010年04月07日掲載
パプアニューギニアの人びとは、いつ終わるとも知れない暴力の連鎖に陥っている。昨年、同国は非常に急速な発展を遂げたが、このことが多数の異なる民族グループ間の対立や暴力文化を悪化させる一因となっている。暴力の被害者の大半は女性や子どもで、しばしば家庭内で起きるレイプやその他の酷い暴力に苦しめられている。生き残った被害者は、医療ケアだけでなく、応急の心理社会的支援も必要としている。
患者が話す暴力の話と傷の深さに打ちのめされる

MSFはラエ市郊外で、援助ニーズがある人びとのもとへ出向
くアウトリーチ活動を定期的に行っている。多くの女性、子ど
も、および男性が、ここで初めて悲惨な暴力の体験を語る。
39歳の婦人科医ナタリー・マフラーは語る。
「仕事中、打ちのめされたような気持ちになることがよくあります。患者が話す暴力の話と、彼らの負った傷の深さに打ちのめされるのです。彼らは想像を絶するような苦しみに耐えています」
彼女はパプアニューギニアの第2の都市、ラエで9ヵ月間国境なき医師団(MSF)の活動に従事し、婦人科および小児科の診療所で家庭内暴力と性暴力の被害者を治療してきた*。マフラーは回想する。
「私は診療所の近くでレイプされた9歳の少女を診ました。少女は病気の母親のために、お使いに出て襲われました。それから、腕の骨折を治療せずに放置していた初出産の女性もいました。彼女の夫は出産直後の彼女をレイプしました。彼女は時間が経ってからようやく腕の骨も妊娠中に夫に折られたことを打ち明けました」
* 男性も医療や心理面のサポートを受けに診療所にやってくるが、MSFが診察する患者の大多数は女性と子どもである。
事件後最初の72時間が重要
ラエのMSF診療所には、毎月、200~300人の新患がやってくる。皆、レイプ、殴打やナイフによる暴力の被害者である。診療所は被害者が安全な環境の中で支援を受けられる唯一の場所となっている。マフラーは語る。
「私は7人の現地スタッフと共に活動しました。止血し、包帯を巻き、血性滲出液*(けっせいしんしゅつえき)や眼外傷の処置を行いました。また、外科手術や集中治療が必要な患者を公立病院に連れて行きました」
*滲出液:炎症で局所の血管透過性が進み、毛細血管から組織内に漏れ出した血液の成分からなる液。
病院は国内に数ヵ所しかないため、常に混雑しており、暴力の被害者のために秘密保持を厳守することも、家庭内暴力(DV)シェルターとしての使用に適した安全な部屋を提供することもしていない。このような理由から、多くの患者は暴力の加害者に出会うことを恐れ、心配のあまり一人で病院に行くことができない。また、公立病院での待ち時間は長い。しかし、性暴力の被害者は事件後早急に処置を必要とする。例えば、HIV/エイズから守る抗レトロウイルス薬は、レイプ後数日間しか効果がない。しかし、この期間ならまだ、望まない妊娠を防ぐことも可能である。さらにパプアニューギニアでは、一般的な梅毒や淋病といった性感染症を防止する抗生物質を受け取ることもできる。B型肝炎の感染を防ぐ予防接種もできる。
暴力の連鎖を断ち切る
医療援助は重要だが、それだけでは十分でない。
「多くの女性と子どもが暴力の下方連鎖に陥っています。診療所から退院しても、彼らは家以外に行く場所がありません。そして、また同じことが始まるのです」とマフラーは語る。
悪循環を断ち切るためには、人びとが暴力から身を守るために必要な知識を身につけ、心理社会的支援を受ける必要がある。MSFのアウトリーチ活動スタッフは、診療所の情報を載せたビラを配り、ラエ市内およびその周辺地域の学校や地元市場で、そして交差点でさえも、暴力の影響について人びとに話をしている。
さらに、チームは地元グループのネットワークと協力関係を築き、MSFのサービスを幅広く受けられるようにしている。心理社会的ケアスタッフ7人とソーシャルワーカー1人が、被害者に治療の支援を行っている。彼らは恐怖について、そして暴力なしで争いを解決する方法について語る。これらのセッションには、家族が参加することもある。ケア・スタッフは、このような機会には、家庭内でのこれ以上の暴力を防ぐための対策をさらに踏み込んで行うことができる。女性や子どもが加害者に対して法的措置を取りたいと望む場合や、加害者からの保護を求める場合には、これらの援助も行っている。例えば、MSFは地元のDVシェルターと協力して、行くあてのない患者のために仮の避難所を手配している。
現地保健当局と共に支援地域を拡大
現在のところMSFは、パプアニューギニアで暴力の被害者に対象を絞り、心理社会的支援を組み入れた応急の医療援助を行う唯一の組織である。ただし、状況は変わり始めている。現在、パプアニューギニアの保健省は、MSFの支援を受けながら、ラエの診療所をモデルとした類似の支援体制を他の地域でも整備しつつある。しかしながら、国は貧しく、あまりにも多くの緊急の課題に直面していることから、進展は遅い。その問題の一つが、2009年9月に50年ぶりに発生したコレラである。MSFはこの問題に迅速に対応し、27人の追加スタッフを3つの州に派遣し、数百人の患者を治療した。
この間も、暴力の被害者への援助は滞りなく続けられた。事実、MSFは最近農村部のタリ町で暴力の被害者を対象とした2つめのプログラムを開始し、すでに産科、入院部門、および水・衛生活動を支援していた。現在、病院では暴力の被害者に複雑な外科処置も行い、ラエの施設のようにレイプと家庭内暴力の被害者を対象に医療ケアと心理社会的ケアを行うファミリー・サポート・センターも運営している。マフラーは語る。
「私たちのところにサービスを受けに来て、初めて自分の悲惨な体験を話したという患者が後を絶ちません。彼らは、私たちがいれば助けてもらえるかもしれないと感じるようです。だから、非常に感謝してくれます。泣きながら何度も何度も私のことを抱きしめる患者も多くいます。私にとってはこれが、困難が多くても仕事を続ける力となっています」
関連情報
- 2010年3月19日
- パプアニューギニア:コレラ発生の緊急事態に対応完了
- 2009年12月24日
- パプアニューギニア:病院敷地内で相次ぐ事件に当局の対応なし。MSFスタッフは一時退避
- 2009年9月18日
- パプアニューギニア:コレラ緊急対応速報 ―治療、啓発活動、衛生管理を強化―
- 2009年9月11日
- パプアニューギニア:50年ぶりのコレラ流行に緊急対応















