欧州とアフリカ諸国におけるエイズ治療の隔たり ―資金援助の後退により命の危機にさらされる数千万人のエイズ患者―
2010年03月11日掲載

MSFはレソトの遠隔地で2006年から包括的なエイズ治療を
提供している
2010年3月9日、エイズ対策の各セクターの代表者がロンドンに集い、世界保健機関(WHO)が発表したエイズ治療の新たな指針の実行に関する協議が開かれた。WHOが2009年11月に発表した新たな指針では、より優れた多剤混合薬を用いた治療の早期開始が推奨されている。一方で、資金拠出機関がエイズ治療の普遍的なアクセスを促進する取り組みから後退している状況に、国境なき医師団(MSF)は警鐘を鳴らす。
WHOが昨年新たに発表したエイズ治療に関する指針は、途上国のHIV/エイズ患者を視野に入れ、欧州とアフリカ諸国のエイズ患者の治療における大きな隔たりを縮められる可能性がある。
MSFベルギー支部における活動統括責任者、アリアンヌ・バウエルンファイントは語る。「MSFのHIV/エイズプログラムでは常により高い水準の治療を目指しており、早い段階で抗レトロウイルス(ARV)薬による治療を開始します。これにより、患者の長期生存につながります。WHOは、副作用の強いスタブジンから他の治療薬に代えることを推奨しています。しかし、私たちは資金拠出機関がエイズ治療に対する資金援助から手を引いているため、各国保健省がこれらの変更を実行するのをためらっている状況を目にしています。」
HIV/エイズの感染率が高い国々の中では最貧国となるレソト王国は、この新たな治療指針の臨床面および財政面での有効性を認識し、2008年に国のエイズ治療ガイドラインを改訂している。MSFはレソト保健省と協同で、遠隔地でテノホビルを用いた治療の早期開始を含めた最も有効的なHIV/エイズ治療の提供に取り組んでいる。
WHOの新たな治療指針に沿って治療体制を変えていくことは、短期的に見れば費用の増加につながる。しかし、長期的には患者の長期生存につながり、HIV/エイズの感染のより効果的な抑制につながる。
MSFのHIV/エイズ政策顧問、シャロナン・リンチは語る。「WHOの新たな勧告が実行されなければ、国際社会は少ない費用で済むが質は劣る治療を途上国に助成することになります。これを避けるには資金拠出機関が新たな取り組みに向けて積極的な姿勢を示す必要があります。これは今日の経済状況から見ると容易ではありませんが、資金拠出機関は5年前に公約として掲げたエイズ治療の普遍的なアクセスを促進する取り組みから後退してはならないのです。」
2005年のG8サミットで、各国首脳は2010年までにエイズ治療を必要とする全ての人に提供する公約を打ち出した。しかし今日では、WHOの推計ではエイズ治療を必要とする1400万人のうち実際に治療を受けられたのはわずか4人に過ぎない。
HIV/エイズの蔓延に直面しているアフリカ諸国は、HIV/エイズ治療の継続および拡大においては外部からの財政的支援に頼らざるを得ない。しかし、資金拠出機関からの支援は徐々に減少している。「米国大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)」からの資金援助は過去数年間で横ばい状態が続いており、一部の国への資金援助は減少した。資金拠出機関の優先事項が変化していることにより、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)」からの将来的な資金援助の見通しが不透明になっている。
世界基金はこれまでエイズ治療を受けている途上国の人びとのうち3分の2に対して資金を提供しているが、今後3年間プログラムを維持するためには、少なくとも200億米ドル(約1800億円)の資金を調達する必要がある。
現在の資金拠出の後退によって、エイズ患者の治療を行う医療機関は受け入れる患者数を一定に制限するか、患者を拒否せざるを得ない事態に直面している。
MSFは世界30ヵ国以上で14万人以上の人びとにHIV/エイズ治療を提供している。














