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ハイチ:劣悪な生活環境に尊厳を奪われる被災者(3月4日現在)

2010年03月08日掲載

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ハイチでMSFの活動を率いたコレット・ガデン
ヌ(左)とMSFベルギー支部事務局長のクリス
トファー・ストークス

ハイチ地震の被災地で、過去数週間にわたって国境なき医師団(MSF)の活動を率いたコレット・ガデンヌ、およびMSFベルギー支部事務局長のクリストファー・ストークスが現地から戻った。本合同インタビューでは、巨大地震の発生から約2ヵ月が過ぎてもなお援助が広範に不足しているハイチの現状について、2人が語る。

Q. 現在、現地はどのような状況ですか?

A. クリストファー・ストークス(以下、ストークス):国際社会はハイチのために大規模に動き、世界中で多額の資金が集められ、現地では多くの援助団体が活動しています。にもかかわらず、今回の震災の規模と被災者のニーズに照らし合わせたとき、真の意味での援助は広範に不足しています。もちろん、特に医療や緊急援助の分野では諸団体によって多くのことが成し遂げられました。しかし、ハイチ人の大部分にとっては、罹災から2ヵ月以上が過ぎた今も、世界の連帯が必ずしも現地での実際の援助に結びついたとは言えません。特に、住居と衛生面での不足が顕著です。

A. コレット・ガデンヌ(以下、ガデンヌ):私は首都ポルトープランスおよびその郊外にある多数の避難所に足を運びました。避難所は約20ヵ所あり、もっとも大規模な区域には、テントや防水シート、トイレ設備、水、食糧などの援助が届き、基礎的な医療も受けられるようになっていました。しかし、その量や規模は十分とは言えず、基本的物資すらも届いていない避難所が10ヵ所以上ありました。援助をまだ全く受けていない住民も数千人にのぼります。

Q. 人びとの生活状況はどうでしたか?

推定8万人の被災者が暮らすペスィョンビル・クラブ・キャンプ
推定8万人の被災者が暮らすペスィョンビル・クラブ・キャンプ

A. ガデンヌ:「衝撃的」の一言に尽きます。多くの人がいまだに、このような状況を耐え忍ばなければならないのは情けないことです。被災者が多く集まっている地域では、文字どおり、人が折り重なっています。シーツを吊って風だけしのぎ、地べたに寝ている人たちも見ました。すべてを失ったのに、ビニールシートさえも自分で買わなければならない人もいます。このような状況が見過ごされるようなことはあってはならないのです。さらに悪いことに、雨季が始まり、最初の豪雨が降りました。避難所のいくつかにはトイレ設備がなく、悪臭は強烈です。避難施設の不足とこのような衛生状態は、公衆衛生上の大きな危険であるばかりでなく、被災者の人間としての尊厳に対する許されがたい冒とくです。

A. ストークス:3月4日現在、避難施設、衛生環境、最低限の生活条件に対する人びとの膨大なニーズは、満たされるには程遠い状況です。そのため、MSFは2万6000張のテントの配布を開始しました。約10万人分の家となります。すでに7000張の配布が終わり、この後も配給が続きます。MSFはまた、調理器具、石けんや洗面器、タオルをセットにした衛生用品キット、毛布と蚊帳も同じ数を配っています。しかし、それだけでは不十分です。援助団体には、今すぐ、はるかに大規模な活動を展開することが求められています。

Q. 人びとの心理状態は?

A. ガデンヌ:この地震を生き延びた人びとが依然ショック状態にあることは想像に難くないでしょう。今も大きな余震が続いており、人びとの回復を遅らせています。多くの人が家を失い、運よく自宅の損壊を免れた人も、屋内で眠ることを恐れて家の前で野宿しています。暴行や略奪への恐怖もあります。しかし、何にも増して、多くの人が、自分は見捨てられていると感じています。今後何が行われるのか、何を受け取ることができるのかといったことについて、人びとが得られる情報は少なく、どこに行けばよいのかもわからないのです。

Q. MSFの医療分野での活動は、どのようなものですか?

A. ガデンヌ:MSFは何よりもまず、最も急を要する医療面のニーズに対応しました。主に外科です。震災直後の数日間は救命と緊急手術に集中し、これまでに4万1232人を診察し、3389人に手術を行いました。また、心理ケアや、術後ケア、理学療法、物理療法のプログラムも立ち上げました。また、避難施設と衛生設備が全く足りないため、テントと救援物資の大規模な配布も開始しました。しかし、私たちにできることも限界に近づいています。これ以上の活動拡大は困難です。

Q. 人びとの医療ニーズは満たされているのでしょうか?

切断手術後の術後ケアを受ける患者。
切断手術後の術後ケアを受ける患者。

A. ストークス:重傷者で震災後数日のうちに緊急手術を受けた患者のほとんどは、今後1年間は治療を継続することができるでしょう。今なお形成手術や追加手術のニーズは高く、リハビリや義肢装着訓練も必要です。ハイチの医療制度は震災以前からぜい弱で、これらの必要なケアを提供することはできません。また、複数の公立病院が地震で損壊しました。残った病院も、患者から医療費を徴収しています。現在、多くの医療援助団体が現地引き揚げの準備をしており、うち数団体からは、患者をMSFに引き継ぎたいとの相談があり、実際にこちらで受けたりしています。

今後、何千人が術後ケアを必要とするのかは、まだはっきりしませんが、術後ケアを提供できる機関の不足は急速に問題となってくるでしょう。MSFはポルトープランス、カルフール、レオガン、ジャクメルに、合わせて700床の術後ケア施設を立ち上げ、さらにベッド数を増やすなどしています。しかしそれでも、すべてのニーズに応えることはできません。各医療援助団体がそれぞれの責任を全うし、治療が終わるまで患者を支え続けることが肝要です。

A. ガデンヌ:このフォローアップケアの不足の問題は、避難施設の不足と劣悪な生活環境のために、より深刻化しています。この2つの問題は相関しているのです。被災者の集まる区域で、重傷を負った人びとが恐ろしく劣悪な生活環境の中で苦しんでいるのを目撃しました。例えば、ある診療所で手術を受けた26歳の男性は創外固定器*をつけていました。入院による経過観察が必要な例ですが、診療所に通院して観察を受けるほかなく、泥地の小さいテントに暮らしている状況でした。このような環境では、傷が感染を起こす率が非常に高いのです。衛生環境の整った状況で快復を待てるように、MSFが開設している施設として、ポルトープランス市のサルト地域にある「医療ケア村」などがあります。

*折れた骨を固定するために、皮膚の外から骨に埋め込む金属の支柱

Q. 復興は始まっているのでしょうか?

カルフールの栄養失調安定センターにて。
カルフールの栄養失調安定センターにて。

A. ストークス:今が非常に重要な時期です。初期の緊急フェーズは過ぎました。同時に国際社会は復興という不可欠な問題について話し合っています。しかし、復興の作業が実際に始まるまでには数ヵ月、あるいは数年を要するでしょう。一方、被災地では、緊急事態が続いています。数万人のハイチ人が耐え忍んでいる困難な状況を改善するには、短期間の国際援助も必要でしょう。避難施設と生活環境に関しては、必要なものは既に明らかです。約百万人分のテントの配給計画が存在はしますが、今日の現実をすぐに変えられる訳ではなく、実施には時間がかかるでしょう。避難施設の提供、衛生状態の改善、保健・医療分野への明確なコミットメントという形で、援助が実際に被災地に届けられる必要があります。復興へと移行するこの期間に、ハイチの人びとが深刻に必要としているものが忘れ去られてはなりません。

A. ガデンヌ:10日ほど前、ハイチ人の同僚が泣きながら私に訴えました。
「こんなにも多くの人が手足を失い、傷を負ったこの国で、これから私たちはどうしたらよいというの?」
わたしはその言葉を聞いて、ハイチでのMSFの活動は今後長期にわたるだろうことを真に悟ったのです。


 

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