インド:バイエル社の敗訴が医薬品の普及に勝利をもたらす
2010年02月26日掲載
インドの裁判所は、国内でのジェネリック薬による価格競争を妨げるために新たな措置の導入を進めようとする多国籍製薬会社バイエル社による最近の試みに待ったをかけた。2010年2月9日、デリー高等裁判所はバイエル社の訴えを棄却し、薬を必要とする患者がより安価な必須医薬品の恩恵を確実に受けられるように定めたインド特許法上の保護措置を弱めることを拒否した。
ジェネリック薬による競争が薬価を継続的に下げる唯一の手段
バイエル社は、ジェネリック薬をインド国内で販売する際に踏むべき承認手続きを遅らせることにより、ジェネリック薬の競争に新たな障壁を設けようとしていた。同社は、インドの医薬品規制当局が、特許の期限が切れる前に特許医薬品のジェネリック版の登録手続きを開始するという動きを妨げようとしていたのである。期限切れの後まで登録時期が遅れるということは、新たな競合他社が市場に参入できるタイミングも後にずれることを意味する。結果として単一の特許保有会社(特許権者)が市場を独占できる期間を長引かせることことにつながる。ジェネリック薬による競争が薬価を継続的に下げる唯一の手段である以上、バイエル社の申し立てが認められれば、必須医薬品の普及に障害を来たす事態も予想されていた。
今回の判決は、インド特許法の公衆衛生に配慮した条項の廃止を目指す製薬会社と西側諸国による一連の活動に対し、インド司法当局が示した最新の結果である。インドは、より安価な医薬品を途上国に供給する一大ジェネリック薬産業を有しており、国境なき医師団(MSF)もエイズ治療薬の80%以上を同国から調達している。
1995年に世界貿易機関(WTO)に加盟した際、インドは2006年以降販売する医薬品に関してより厳格な特許規定を設けることに同意したが、同時に医薬品の普及を確実にしていくにあたって鍵となる公衆衛生の保護制度も盛り込んだ。この制度は完全に法的な措置であるが、各製薬会社は実効性を弱めようと働きかけている。
より厳格な特許規定を設けた場合、製薬会社にとってはジェネリック薬と競合しない製品について非常に高額な価格設定が可能となる。このため、多くの新薬が何百万人もの患者にとっては手の届かないものとなる。各国政府は、独占によって医薬品の普及に悪影響が出ることを避けるために「TRIPS協定*の柔軟性」と呼ばれる法的な措置をとることができる。だが、もしもバイエル社の試みが成功していたならば、強制実施権やいわゆる「ボーラー条項**」といった柔軟な措置はインドでは有名無実になっていたであろう。
*TRIPS協定:知的所有権の貿易関連の側面に関する協定
**ボーラー条項:後発医薬品の販売許可の取得に必要なすべての試験を、対象特許の特許期間満了前に行うことを許可する条項
製薬会社がインド当局を相手取って起こした2大訴訟
今回の訴訟は、インドにおける特許保護の強化を目指す製薬会社がインド当局を相手取って起こした2大訴訟のひとつである。他方の訴訟では、ノバルティス社がまた別の重要な公衆衛生の保護制度を問題にしていたが、2007年に最初の訴訟に破れた同社は最高裁判所に上告した。MSFは今後も双方の訴訟を注意深く見守ってゆく。
MSFの必須医薬品キャンペーンのディレクター、ティド・フォン・シェーン・アンゲラー医師は語る。「バイエル社の訴訟が棄却されたのは喜ばしいことです。現在、インドでは多数の多国籍製薬会社がジェネリック薬による競争を抑制するために訴訟を起こそうとしています。バイエル社の訴えを退けたことで、インドの裁判所は、自国や他の途上国にいる何百万人もの患者を対象にHIV治療薬を含むジェネリック薬の製造を開始するために、公衆衛生の保護制度を活用できると保証してみせたのです」
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