ハイチ:回復への第一歩
2010年02月10日掲載

切断手術が必要な場合、絵に描くなどして事前に
説明する。写真はジェリーとリンド医師。左下の
紙はその絵。
ジェリーは7歳の男の子。現地時間1月12日にハイチを襲った大地震で自宅が倒壊し、がれきの中から助け出された時には、大腿骨の開放骨折(折れた骨が皮膚を突き破っている骨折)を負う重傷だった。
ジェリーの母、ルイスメールはこの地震で5人の子どものうち2人を亡くした。3人目を失うまいと、ルイスメールはすぐにジェリーをポルトープランス市内にある国境なき医師団(MSF)の病院に連れてきた。
MSFの医療チームは、ただちに傷口からの感染をおさえるため抗生剤を投与した。その後、彼を手術室に運んで壊死した組織を切除し、傷を完全に清浄した。数日後、医師らはジェリーをもう一度手術室に運んで傷の再点検と再洗浄を行った。感染はまだひどい状態で、これが全身にひろがってジェリーの命を脅かすのではないかと医師らは非常に心配した。
カリン・リンド医師は「傷は太腿と胴体の付け根に近いところにあり、もし感染がそれより上にいけば、私たちができることはなかったでしょう。命をつなぎとめるには脚を切断するしかなかったのです」と話す。
地震発生から20日間で、MSFの医療チームは1万1千人を治療した。この間、MSFの外科医は昼夜を分かたず働き、1300件以上の手術を行った。このうち十分の一強にあたる約140件は切断手術である。患者の生命や肢を救うためには常に最後の手段とされた。しかし、時には切断手術を行う以外、選択肢はないこともあった。
切断手術はMSFの外科医らが患者の同意を得てから行われる。そして、MSFの心理療法士が手術の前に患者と会い、脚を失うことを受けとめられるよう心理面のサポートをする。心理療法士は患者の家族とも話しあい、将来どのようなことに対処するべきか、心の準備ができるようにする。
MSFの心理療法士、ルノー・サンデールは語る。「患者さんたちは、ただでさえ、地震による心身両面への傷と、家族を失ったことでの心的外傷に対処しなければならないのです。切断手術は彼らにとってさらなる苦しみです。手術後、私たちは家族が患者さんを支えていけるか確認するようにしていますが、例えば、夫と家財全てを失った母親に対し、子どものために強くなれと言うのはたいへん難しいことです。」
切断手術が終われば、患者の関節駆動域などの改善と義肢をつける準備に必要な理学療法が始まる。
ポルトープランス市内のイザイ・ジャンティ病院でMSFスタッフとともに活動するNGOハンディキャップ・インターナショナルの理学療法士、ヴィヴィアン・ハッセルマンは語る。「早い段階から義肢を着ける訓練を始めることが大事です。理学療法では、義肢を装着する肢の筋肉を鍛える訓練をします。また他の脚や腕の筋肉も鍛えます。3ヵ月経てば、患者さんは義肢の装着に耐えられるほど傷が治癒し、皮膚も強くなります。」
大手術を受けた身体の回復には長い時間がかかり、患者は専門的なケアを受ける必要がある。また、患者の多くは、今回の地震で自宅を失っている。回復に必要な清潔な避難場所がない状態で、早く退院することは回復の妨げになりかねない。しかし、ポルトープランス市では、病院は負傷者で満杯の状態で、長期治療に利用できるベッドの数は不足している。そこで、長期間の援助を必要とする人びとを受け入れるためにMSFは術後ケアに特化した医療施設を数ヵ所新たに設けた。
元々「ミッキー」という幼稚園だった建物が、MSFが設営した術後ケア施設4ヵ所の一つである。2月の第1週、MSFはこの建物の庭に医療テントを建設し、術後患者の受け入れに利用できるベッド数を倍にした。現在、この施設は最大60人の患者が必須のケアを受けられるようになっている。
「ミッキー」では、看護師、医師、心理療法士、理学療法士からなるMSFのチームが、傷の洗浄・消毒、包帯交換、歌や絵といった作業療法を通して、患者の経過を見守っている。切断手術を受けたジェリーは、ここで母親ルイスメールの見守る中、回復を待っている。こうした患者へのきめ細かな目配りや質の高いケアを通して、ジェリーのようにハイチ地震で負傷した人びとは、回復への最初の一歩を踏み出すことができるのである。
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