パレスチナ・ガザ地区:戦争の後遺症に対応する医療体制の必要性-活動責任者へのインタビュー
2010年01月07日掲載

2009年1月のガザ侵攻以来、この地区では保健医療のニーズが増大し、国境なき医師団(MSF)は、術後ケア、理学療法、心理ケア、外科手術といった特定分野における医療ニーズの高まりに対応した。
MSFのパレスチナ自治区における活動責任者ジャン=リュック・ランベールが、侵攻後の1年間にMSFが行った活動の総括と、今後の活動の見通しについて語る。
Q. 2009年、ガザ地区の侵攻後のニーズに応えるため、MSFはどのような活動を行いましたか?

MSFのスタッフとリハビリを行う男性。
A. イスラエルによるガザ侵攻作戦「鋳造された鉛」作戦の直後には、空気で膨らませるエアーテント2張りの中に緊急外科手術センターを開設し、大勢の外傷患者を治療しました。MSFは、戦争で負傷し、複数回の手術を必要とする患者に整形・再建外科手術を実施しました。これにより、負担過剰となっていた保健省管轄の医療機関は、救急患者に専念できました。MSFはこの緊急対応、および、その後のフォローアップのプログラムを2009年の1月から7月まで続け、合計で整形外科手術を84件、形成再建外科手術を278件行いました。
術後ケアと理学療法のニーズに応えるため、MSFは診療所3ヵ所を開設し、これらの活動に特化した8つの移動診療チームが、術後の患者向けの活動を行いました。2009年、治療した患者は1116人、治療回数は5万4609回にのぼりました。
微生物学を術後ケアプログラムに取り入れたことも重要事項でした。というのもガザでは抗生物質に耐性を示す患者の割合が非常に高いのですが、簡易で効果的な臨床検査を行うことで適切な薬を処方でき、細菌感染した傷のある患者の治療を効果的に行うことができたからです。
また、戦争の心理的影響は深刻でした。これは特に子どもの間で顕著にみられ、MSFは殺到する患者に対処するために心理療法士のチームを増強しました。2009年は心理ケアプログラムに合計300人の患者を受け入れ、1クール最大10回のセッションからなる短期治療を提供しました。うち78%の患者は最後の診察の際に「立ち直った」または「立ち直りつつある」と診断されました。このプログラムに登録された患者の57.5%は、12歳未満の子どもでした。
2007年に医療サービスの提供能力が全体に悪化し、唯一の基幹小児病院が対応しきれない状況に陥ったことから、MSFは2008年2月にガザ地区北部で小児医療プログラムを開始していました。こちらは、2009年9月をもって終了し、現在、この分野は他の援助団体が活動を担っています。MSFは19ヵ月間で、1万1000件以上の診察を行いました。
Q. 2010年の活動予定は?

紛争によって外傷を負い、治療を受ける
男性。
A. 2008年末から2009年年初に起きた侵攻に際して、MSFはパレスチナ人の医療従事者および医療補助スタッフが自宅周辺の患者の治療にあたれるよう救急キットを提供し、迅速な対応を行うことができました。こうした方法は必要とあれば、また実施します。同様に、仮設病院用のエアーテントは分解して倉庫で保管し、必要が生じれば、またすぐに設置することができます。
シファ病院は、ガザ地区全域で、火傷治療センターを備えた唯一の病院です。MSFは一定期間、対応可能な範囲で、術後ケアプログラムへの受け入れ基準を拡大し、シファ病院から紹介される重度の火傷患者を受け入れる予定です。彼らは事故による患者で、専門的な治療と理学療法を必要としています。
また、治療提供の機会を増やし、他の医療機関の負担を減らすために、MSFはガザ地区南部、エジプトとの国境地帯にあるラファに、4ヵ所めの診療所を開設する予定です。
ガザの住民は著しい心的外傷を受けており、心理的支援や心理療法を必要としている家族や子どもが大勢います。しかし多くの患者は、移動制限や治安悪化のためにMSFがまだ活動できていない地域に暮らしています。こうした人びとは治療を必要としています。MSFは2010年、このように孤立した地域で苦しんでいる患者に援助を届けられるよう、必要な手立てを講じます。これに沿って、心理療法士を1人増員しました。
戦争による負傷と、傷跡、引きつり、変形といった後遺症に対応することは、脆弱な医療体制にとっては、一つの試練でもあります。被害者の数が多すぎて対応しきれないのです。形成再建外科手術のニーズに応えるために、MSFはこうした患者が一定の運動機能と尊厳を取り戻すことを目的としたプログラムの開始を提案しました。2010年には、保健省と協力して形成外科プログラムを提供する予定です。北部にある病院、中央部にある別の医療機関、そして南部の医療機関で、3ヵ月ずつ順番に活動するという計画です。既に順番待ちリストには55人の患者が登録され、さらにMSFの術後ケアプログラムから紹介される患者がこれに加わる予定です。
緊急対応活動を振り返って
「鋳造された鉛」作戦が開始されてすぐに、MSFはガザの各病院を支援する対応をとり、医療物資や医薬品の寄付も行った。戦時中は爆撃が激しく安全が脅かされたため、MSFの診療所は閉鎖をせざるを得なかった。何人かのパレスチナ人スタッフは救急キットの提供を受けて自宅近隣の患者の治療にあたることができた。ガザ市内で運営する診療所は活動を続けていたが、医療機関を訪れることのできた患者はごくわずかだった。
2009年1月3日に地上侵攻と都市部のゲリラ戦が始まったことで、治安は悪化した。その後、18日になってイスラエル軍が停戦を宣言し、ガザへの外科治療チームの現地入りと仮設病院用のエアーテント2張りを含む21トンの物資搬入が、ようやく実現した。
MSFは活動を専門的外科手術と二次手術に集中することを決め、日に5~8件の手術を行った。術後ケアと理学療法のプログラムでは、さらに332人の患者を治療。また、心理ケア体制も強化し、戦争中に特に危険にさらされた救急車の運転手や救急隊員などの救援活動従事者に対する治療も行った。
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