パレスチナ・ガザ地区:ガザ侵攻から1年を経た現地の状況
2010年01月07日掲載

2008年12月27日、イスラエルはパレスチナのガザ地区に対して「鋳造された鉛」と名付けられた軍事作戦を開始した。この作戦の下で集中的な空爆が行われ、2009年1月3日には地上侵攻も開始された。22日後の2009年1月18日にガザ侵攻は終結したが、その被害は甚大で、1300人近いパレスチナ人(うち一般市民は900人、その中には子ども300人が含まれる)が死亡し、負傷者はおよそ5300人に達した。この戦争は人道上、医療上、経済上、どのような影響をもたらしたのか。そして現在、その影響はどのように続いているのだろうか。
政治的・経済的要因か複雑に絡み合うガザの状況

ガザ攻撃開始は2008年末。しかし、復興には程遠い町の
状況が建物からもうかがえる。
ガザ地区におけるパレスチナの保健医療部門で生じている問題は、1年前に暴力が頂点に達してからより顕著になっている。とはいえ、こうした極度の暴力という事態が起きなかったとしても、この問題はそれ以前から存在していた根深い問題である。
国境なき医師団(MSF)は、ガザの状況は1年以上前から継続的に悪化していると捉えている。これは、以下のような政治的・経済的な複数の要因が積み重なった結果である。
- イスラエル-パレスチナ間の長年にわたる紛争、および、特に「鋳造された鉛」作戦で頂点に達した暴力。
- イスラエルによる経済封鎖と、特にそれが2008年1月から強化されたことで、電気と燃料の調達に支障が出ていること。さらにこの影響で、現在、戦後復興が大きく妨げられていること。
- 2007年の夏にパレスチナで内紛が生じ、病院が標的とされて医療従事者はストライキに追い込まれた。人道援助従事者は非難の対象となり、医療提供も妨げられた。
こうしたさまざまな状況悪化の要因は、今でも直接的・間接的に影響を及ぼしている。
既に不安定だった医療サービスの悪化

外傷治療後、リハビリを受ける女性。
ガザ地区では、医療機関が正常に機能する能力が著しく低下している。大半の医療機器が安心して使用できる状態にない。しかし、経済封鎖が行われているため、必要な交換部品を手に入れることは極めて困難である。同様に、医療機関も医薬品の不足に直面している。
1月の戦争で5000人を超える人びとが負傷し、その多くが身障者となった。しかし、ガザ地区にはリハビリセンターが1ヵ所しかなく、そのセンターでも義肢の製造に必要な原材料や部品の入手に苦労しており、人工装具の装着を受けるまでの待ち時間は、2009年末時点で2010年半ばに達している。
順番待ちしている身障者が150人にのぼる一方で、不発弾によって今でも死者や負傷者が生まれ続けている。MSFのパレスチナ自治区における活動責任者、ジャン=リュック・ランベールはこう嘆く。
「不発弾で遊んでいた子ども2人がなくなり、少なくとも3人が負傷しました。戦争から1年経っても、ガザの子どもたちは戦争の影響で命を落としているのです」
外見が変わるほどの傷ややけどを負った人びとには、形成外科手術や術後ケアを施さなければならない。しかし、ガザには形成外科医が1人しかおらず、ガスボンベの爆発といった家庭内の事故やパレスチナの内紛による被害者が後を絶たないこともあり、すべての患者に対応しきれない状況にある。
1月の軍事攻撃中は、救命救急患者が優先されたため、慢性病患者の40%が治療を受けられなかったと推測されている。このことは慢性病患者の健康に長期的な影響を与えた。ランベールは語る。
「化学療法は3種類の医薬品を組み合わせて行う場合が多いのですが、ガザでは2種類しか入手できないため、部分的にしか治療に利用できません。また、ガザでみられるがんの30%は乳がんですが、マンモグラフィーによるX線撮影に使う化学製品を持ち込むことができないのです」
ガザ地区内で治療を受けられない患者たちは、自治区の外に治療を受けに行かなければならない。しかし、出国許可の申請手続きはイスラエル側でもパレスチナ側でも非常に複雑で、診療予約に間に合うようにガザを出ることができない場合もある。
測り知れない「鋳造された鉛」作戦の心理的影響
ランベールは続ける。
「『鋳造された鉛』作戦の心理的影響は測り知れません。MSFの心理療法士チームは、押し寄せる依頼に対応しなければならない状況です。順番待ちのリストは膨大です」
特に子どもたちに影響が生じており、中途退学や欠席、攻撃性、夜尿症などがみられる。家庭内暴力も大きな社会問題となっている。
「戦争中、ほぼ絶え間ない空爆からの避難所がなかったこと、そして国境が常時封鎖されていたことから、一般市民は逃げ場を失い、極めて弱い立場に置かれていました。人びとは、心の健康の基本要素である安心感を失ってしまったのです」
世界保健機関(WHO)の推定によれば、攻撃を受けて2万人から5万人の人びとが、今後も長期的に心の病に苦しむものとみられる。
経済不振と生活の困窮

MSFの車両で搬送される患者。
生計の手段は徹底的に破壊され、特に1月の攻撃による被害は多大だった。多くの小企業、工場、商店、民家が全壊または甚大な損害を受けた。国連はこうした破壊による被害額が、合計で1億3900万ドル(約127億円)に達すると見積もっている。
現在、14万人のガザ住民が失業しており、失業率は2007年の32%から、現在50%に達している。
「この数字は世界でも最高レベルです。経済封鎖によって民間部門で12万人の雇用が失われました。平均して、労働者は1人当たり6~7人の家族を養わなければならないのですが、70%の世帯は1日1ドル(約90円)未満で生活しています。現在、ガザ住民の75%、すなわち110万人の人びとが、食糧援助に頼って生活しています」
厳重な警戒態勢による物流制限、前回の軍事侵攻、そして出漁区域や農業区域の徹底的な制限の拡大が食糧調達に影響し、大幅な価格変動を引き起こしている。2007年の1月には毎日600台を超える物資供給用トラックがガザ地区に入っていたが、現在では100台を下回っている(うち、70%が食料品を運搬)。
また、冬が近づく中、建設資材の運搬が制限されていることで、2万人にのぼる避難民の生活環境が一層悪化することが予想される。ほとんどの避難民は戦争から1年経った今でも、仮設の避難所や破壊された自宅のがれきの中という不安定な環境で暮らしている。
電気、水、衛生設備を支える基本インフラの不足
「鋳造された鉛」作戦の際に、電気や水の調達に必要なインフラ、そして衛生設備が標的とされ、その一部が破壊された。
「ガザには、もう発電所は1ヵ所しかありません。必要なエネルギーの60%はイスラエルとエジプトから購入する電力で補っています。毎日4時間から8時間もの停電が起き、住民の10%に電力が全く届いていない状況です」
給排水システムも極めて脆弱で、ガザ住民に供給されている水の90%は、WHOの水質基準によれば飲用に適さない。毎日およそ8000万リットルの汚水が処理されずに地中海へと放出されており、健康や環境、特に水産物への影響が懸念される。実際、急性の下痢など、水を原因とする病気の症例が増えている。しかし、現時点で、こうした公共インフラの大掛かりな再建や修復は全く実施されていない。
ランベールはこう結論づける。
「至急封鎖を解除すべきです。本や鉛筆も含め、すべてが不足しています。病院や学校には窓も屋根もありません。家、医療機関、公共インフラなど、すべてを再建しなければなりません。それが実現してようやく、人びとは心身両面から自らを立て直すことができるでしょう」
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