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アフリカ睡眠病:紛争地帯における治療の課題と、さらなるリスクへの対応

2009年11月09日掲載

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以下の文章は、2009年9月10日付でウェブサイト「Humanitarian Practice Network」に掲載されたMSFオペレーション・ディレクターのフランソワ・シャピュイ医師と、MSFアフリカ睡眠病担当のブルーノ・ヨッフムによる寄稿である。


紛争中に治療できず失命する患者の数は、紛争の直接的犠牲者の数を上回る

アフリカ睡眠病の治療を受ける少女。
アフリカ睡眠病の治療を受ける少女。

政情不安と繰り返される暴力は、その影響を受ける人びとの健康に多大な影響を与える。紛争中に治療できる病気で命を落とす人の数のほうが、紛争の直接的犠牲者の数よりも多いことがいくつかの研究によって明らかになっている。既に不十分な医療施設の状態が紛争によってさらに悪化し、マラリアや下痢といった基本的な治療だけで足りる病気でさえ、治癒できずにいるケースが多いためである。

一般にアフリカ睡眠病として知られるアフリカトリパノソーマ症は、とりわけ紛争中に急増することの多いやっかいな病気である。マラリアや下痢と違い、診断や治療が難しい上、治療をしなければ100%死に至る。

アフリカ睡眠病はツェツェバエに刺されることによって感染する。病原体の原虫はトリパノソーマ・ブルーセイ・ガンビエンス(西および中央アフリカ)とトリパノソーマ・ブルーセイ・ローデシエンス(東アフリカ)の2種類ある。毎年、世界36ヵ国で5万~7万人が感染しているとみられ、報告された症例全体の97%を7ヵ国で占めている。しかし、調査が不十分な地域が多いため、正確な感染規模は明らかになっていない。

専門の検査や治療が求められるアフリカ睡眠病

この病気の初期段階では、発熱、頭痛、関節痛がみられる。治療をしないでいると、徐々に寄生虫が患者の防衛機能に打ち勝って、血液脳関門を通過してしまう。第2段階の症状は病名の由来となっているとおりで、精神錯乱や協調不全に加えて、突如疲労感に襲われたり、躁状態となったりを繰り返して睡眠周期が不安定となり、次第に日中睡魔に襲われ、夜間に睡眠困難となる。この段階で治療を行っても、神経系へのダメージは回復不可能の恐れがある。

アフリカ睡眠病が問題なのは、診断に検査施設が必要な点である。初期段階と第2段階を識別するためには、腰椎穿刺(ようついせんし)*によって、髄液のサンプルを取る必要もある。
*腰椎穿刺:髄液を採取したり薬液を注入するために、腰椎部で脊髄膜下腔に専用の針を刺し込むこと。

初期段階の患者の治療は比較的単純かつ有効であるが、実際には第2段階まで進行している患者がほとんどで、この段階での治療は非常に難しい。選択肢の1つは極めて毒性の強い薬であるメラルソプロールを使うという治療法だが、患者の3~10%は死亡してしまう上に、効果も限られている。

もう1つの選択肢はガンビエンス型の感染にしか効果がない。さらに14日間にわたって点滴を56回行う必要があるため、専門のスタッフと設備が必要となる。アフリカ睡眠病の抑制にはベクターコントロール(媒介生物の駆除)だけでは不十分であり、感染のサイクルを断ち切るために、感染者の診断と治療を行うことが不可欠である。

アフリカ睡眠病の「ホットスポット」は危険地域や紛争地域

紛争の中、攻撃を受けて、人びとがいなくなった村。
紛争の中、攻撃を受けて、人びとがいなくなった村。

アフリカ睡眠病は過去1世紀にわたってアフリカで猛威をふるい、ケニア、タンザニア、ウガンダ、ナイジェリア、コンゴ民主共和国(以下、コンゴ)に深刻な流行をもたらした。1960年代までにはいったん沈静化したが、その後の監視体制の緩和を原因として1970年代中ごろには再発し、今世紀初頭まで大流行が続いた。幸いにも、最近の調査結果によればこの病気は多少とも再び沈静化しつつある。しかし、依然として罹患率の非常に高い地域は存在する。これらの「ホットスポット」には、概して危険地域や紛争地域であるという共通点がある。

こうした地域の1例が、国境なき医師団(MSF)が2007年6月から今年3月までアフリカ睡眠病の診断・治療プログラムを展開していたコンゴ・オリエンタル州のオー・ウエレ地方である。この活動期間中に、MSFは感染率の高い地域を発見した。スクリーニングを受けた4万6601人のうち、およそ3.4%が陽性と診断され治療を受けた。感染率が10%に達する孤立地帯もあった。この病気の感染率としては極めて深刻な数値である。

ウガンダおよびスーダン南部と隣接するオー・ウエレ地方は、資金・設備が不足していることでよく知られており、また、長年にわたり、散発的な紛争や政治的緊張に見舞われている。2008年9月から、ウガンダの反政府勢力「神の抵抗軍」に対する共同軍事作戦が実施されたことで、こうした情勢不安と暴力が激化し、MSFはほぼすべての活動の中断を強いられた。5000人を超える患者は、このまま治療を受けられなければ2年以内に命を落とす恐れがあり、事態は極めて憂慮される。

さらに気がかりなのは、感染した人びとが移動していることである。難民たちが新たな地域に流入し、これまでこの病気が一掃されていた地域に感染を復活させたり、新たな流行の中心地を生みだすリスクが高まっている。さらに、神の抵抗軍がアフリカ睡眠病の感染率が既にかなり高いレベルにある中央アフリカ共和国にまで領土を拡大しつつあることも、懸念材料のひとつである。

“患者が顧みられない”事態への警戒

世界保健機関(WHO)は、診断と治療をプライマリ・ヘルスケアに組み込むことができれば、アフリカ睡眠病は撲滅できるという期待を表明している。しかし、医療施設がこれを行う能力を備えていない場合も多いため、積極的な症例発見に基づく、より徹底的で的を絞った活動の実施が、この病気を抑制するための最善策である。不安定な情勢が広がる現状では、多くの地域でこの病気の完全な撲滅は不可能となっている。

アフリカ睡眠病は「過去の災い」として片づけることのできる医療問題ではない。政情が不安定な地域では、専門プログラムを実施して警戒を続ける必要がある。“患者が顧みられない”事態が再び起これば、歴史が繰り返される恐れがある。

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