欧州諸国で結核治療の研究開発に対する資金拠出が大幅に不足
2009年10月29日掲載
MSF、人命が犠牲にされている怠慢を報告

薬剤耐性結核の治療に用いる薬。複数の薬を組み合わせ
て投与する必要がある。カンボジア、2009年。
現在の結核治療の研究開発に向けた資金援助において、欧州主要国はアメリカに大幅に遅れをとっている。そのため、欧州の主要国は結核の新たな診断法や治療法の開発が大幅に遅れている現状に対して責任を有すると、国境なき医師団(MSF)は10月21日に発表した報告書「結核治療の研究開発:欧州各国における資金拠出の不足」で指摘する。この報告書では、結核で毎年170万人が命を落としている中で、スウェーデンを除く全ての欧州諸国が結核治療の研究開発を資金拠出の優先事項としないため、世界的に巨額の資金不足につながっている現状を示している。
MSFインターナショナル会長、クリストフ・フルニエ医師は語る。「現在、私たちは多剤耐性結核(MDR-TB)の患者の治療に取り組んでおり、さらに新たな地域密着型のアプローチも試験的に実施しています。しかし、現在利用可能な治療薬と診断法では結核患者に適切な治療を行えないため、多数の患者が命を落としているという厳しい現実に直面しています。そのため、欧州諸国が結核治療の研究開発により多くの資金を動員し、研究開発を促進させることが緊急に必要なのです。」
同報告書では、フランスとイギリスはそれぞれが負担すべき額の52%と50%しか各々が資金拠出を行っていない現状が記されている。負担額の3分の1程度しか資金援助を行っていない欧州諸国の資金拠出額は、負担額の3分の2を拠出しているアメリカに比べてはるかに小さい。結核治療の研究開発を拡大させるために必要とされる推定額14億5千万ユーロ(約1986億4千6百万円)のうち、世界各国からの資金援助は必要額のわずか24%に値する3億5千万ユーロ(約479億4千9百万円)に過ぎない。
MSFがこのような主張を行うのは、現在東欧、アジア、サハラ以南アフリカ諸国でMSFが実施する結核治療プログラムで、結核患者の治療において数々の困難に直面しているためである。旧ソ連邦諸国を含む欧州の世界保健機関(WHO)加盟国において、1時間あたり新たな結核の感染が55件発生しており、これは毎年50万人以上が結核に感染していることを意味する。

結核患者を診察するMSFの医師。カンボジア、コンポンチャ
ム病院にて。
結核治療に対する資金援助が恒常的におざなりにされている現状は、開発途上国において診断検査の方法が不十分かつ時代遅れのために、結核感染者全体の約半数しか感染を発見することが出来ない状況を生み出している。MDR-TBの治療では、副作用を理由にいったん使用が中止されていた薬が、代替薬がないという理由で再び用いられ始めている。しかし、最も効果的な治療薬を用いたとしても、MDR-TBの治療が完了するのは患者の3分の2未満に過ぎない。
スウェーデンが議長国を務める欧州連合(EU)では、抗菌薬耐性を医療面で取り組むべき主要な優先課題と定めた。しかしながら、結核やその他の顧みられない病気が著しく過小評価されている。10月22日から24日にスウェーデンのストックホルムで開催される「欧州開発デー」の直前に発表した今回の報告書において、MSFはEUが結核を優先事項に加えることが緊急に必要であることを説明している。
国際肺疾患予防連合(IUATLD)の事務局長、ニルス・ビロ医師は語る。「最大限のことをしているかと問われたら、欧州に関する限り答えは明らかにノーです。新薬や既存の薬に関する臨床試験を実施することでMDR-TB治療を発展させようという意欲的な計画はあるのですが、これまでのところ資金援助の申し出は全くありません。現状を変えるためには、数年間にわたって資金を維持する政治的な取り組みが必要です。欧州は結核への資金拠出を優先すべきです。」
同報告書では、患者に近いところで検査を実施するポイント・オブ・ケア検査(POCT)の開発を促進するための、有望かつ革新的な金融メカニズムについても取り上げている。そのうちのひとつである医薬品の研究奨励基金は、研究開発コストを高い薬価によって回収する必要性をなくすことを可能にするものである。約5千万ユーロ(約68億5千万円)あれば、製薬会社や研究団体が競う奨励金を設けることが可能になるであろう。こうした奨励金の制度は、企業や政府によって既に科学面や商業面での問題解決の手段に用いられ、成功を収めてきた。しかしこれまでのところ、この種の奨励金に出資を申し出る資金拠出者はいない。
MSFは世界中の80を超える結核治療プログラムにおいて約3万人の結核患者を治療している。
MSF報告書「結核治療の研究開発:欧州各国における資金拠出の不足」は、2009年10月22日から24日までスウェーデンのストックホルムで開催される欧州開発デーに先駆けて発表されました。この報告書(英語)はMSFウェブサイトに掲載されています。
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