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パキスタン:活動責任者クリス・ロックイヤーからの手紙

2009年09月18日掲載

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クリス・ロックイヤーは2008~2009年の大半を、パキスタンにおける活動責任者として過ごした。ロックイヤーにとって、ソマリア、スーダン北部、ダルフールに続き、国境なき医師団(MSF)からの6度目の派遣だった。


洪水、地震、紛争……予想外の事態に追われた15ヵ月

15ヵ月間にわたるパキスタンでの活動責任者としての仕事を終え、帰国してから少し時間が経ちました。ですから、この手紙を「現場便り」と呼ぶのはよしましょう。もはや“最新ニュース”ではありません。しかし、パキスタンでの活動を振り返る時間があったことは、よかったと思っています。ご想像のとおり、書くことはいくらでもあります。

パキスタンでは、洪水、地震、そして100万人を超える避難民を出した北西辺境州での紛争(1947年のインドからの分離独立以来、最大規模です)を経験し、対応してきました。これらはすべて、予定されていた活動に加えての仕事でした。私たちのもともとの活動は、現地の医療制度の中で概ね忘れ去られた分野となっている、母親と子ども向けの医療に重点を置いて計画されていたのでした。

世界の利権争いの中心にいる国、その外側に置かれる市民

現地で活動中のクリス・ロックイヤー。「パキスタン国民の状況はあまり報道されません」。
現地で活動中のクリス・ロックイヤー。「パキスタン国民の状
況はあまり報道されません」。

パキスタンという国は、常にニュースにのぼっているように思えます。既得権利をもっている人には、特に気になるところでしょう。隣国アフガニスタンに駐留する欧米の軍隊。開発と安定のために欧米各国政府から贈られた巨額の寄付。世界をまたにかけた膨大な数のパキスタン人の国外移住者。それらすべてが、国際社会がパキスタンという国にもつ利害関係となっているのです。実際、パキスタン国内にいると、世界がこの国を中心に回っているかのように思えてきます。

このようにパキスタンの政治、経済、紛争はニュースでよく取り上げられますが、国民のことはあまり報道されていません。私はパキスタン滞在中、自然災害が村々を一夜にして破壊し尽くす光景を目の当たりにしました。また、数十年来の激しい戦闘に故郷を追われ逃げてきた何千もの人びとを見ました。

中でも特に鮮明に覚えているのは、州都ペシャワール市に程近いマルダン郡に設営された避難民キャンプでの出来事です。私は、アフガニスタンとの国境沿いにあるバジャウル自治区から避難してきた数人の男性らと座っていました。そのうち、彼らの携帯電話が鳴り始めました。彼らが動揺し始めた様子だったので、私は「何があったのですか?」と尋ねました。

パキスタン北西部では、紛争から逃れた多くの人が避難民となっている。写真中央は、避難民キャンプ内の給水地点。
パキスタン北西部では、紛争から逃れた多くの人が避難民
となっている。写真中央は、避難民キャンプ内の給水地点。

「私たちの村の上空に、またヘリコプターが飛んできて、村中で戦闘が起きているのです」彼らは、そう答えました。私はすべての村民が村を離れたものと思っていましたが、実は、人の世話をしたり財産を守るために残っている人もいたのでした。私が話をしていた避難民の男性たちは、混乱状態の中にいる家族を安全な場所に誘導しようと電話で指示していたのでした。

危機から逃れられるかどうかわからない家族に、最後かもしれない電話をかける、という話を聞いたことはあるでしょう。ありがたいことに、私自身はそのような電話を経験したことがありませんが、まさにそういう恐怖を体験しつつある何十人もの人びとの中に、私は突如、身を置くことになったのです。

身がすくむような同様の話も、数多く耳にしました。乳幼児を抱きかかえて避難所に逃げ込もうと右往左往する人びと。路上で、また上空で勃発した戦闘を逃れようと走る家族。行く手に待ち受ける危険のために、逃げたくても逃げられない人びと。その場にとどまるのはとても危険ですが、去るのはもっと危険です。そんな状況を想像してみるだけで恐ろしいのです。

「なぜ政府は、向こうで爆弾を浴びせながら、こちらでは薬を差し出すのか」

ニュースの派手な見出しの陰に隠れて見落とされがちなこのような出来事は、毎日のように何千と起こっています。だからこそ、国境なき医師団(MSF)は、「10の最も深刻な人道的危機 2008年」にパキスタンを含めたのです。

パキスタンには、明らかに医療・人道援助活動の必要があります。ないがしろにされてきた妊産婦医療や小児医療などを含む僻地医療の援助、頻発する自然災害への対応、何十万人もの避難民を生んだ政府と武装勢力の衝突で負傷した人びとの治療、すべて援助活動が必要です。

しかし、パキスタンで援助を行き渡らせるのは容易ではありません。政治的にも軍事的にも世界で最も張りつめた地域であるパキスタンでは、援助は往々にして、人権を最優先にした公正な原則に基づいて届けられるのではなく、政治的な目的に結びついて、報道の後を追うように分配されます。こうした分配のあり方が、現地の人びとの間で「なぜ(政府の)連中は、向こうでは人びとに爆弾を浴びせておきながら、こちらでは薬を差し出すのか」という不信感、幻滅感を増幅させるのです。人びとが必要としており、受けてしかるべき援助が、より大きな政治的思惑に引き込まれてしまうのです。

独立の立場と献身的で能力の高いチームあってこその援助実現

クリス・ロックイヤーと現地の人びと。写真は2008年11月、パキスタン大地震の時のもの。
クリス・ロックイヤーと現地の人びと。写真は2008年11月、
パキスタン大地震の時のもの。

MSFがこの複雑極まりない状況の中で中立を保ち、援助を最も必要としている人たちに手を差し伸べようと試みてきたことを私は誇りに思っています。私たちと同じような方法で医療を提供できる組織はほとんど存在しません。MSFの独立性は、原理原則の上でも実務の上でも極めて重要です。独立性を保てない機関は現地の政治や国際政治に引きずり込まれる危険を負うからです。MSFはパキスタンで独自の立場を維持できています。

そう確信しているからこそ、そして献身的で能力の高いチームに支えられているからこそ、私たちは、パキスタンの変転極まりない厳しい状況の中で、一番苦しんでいる人びとに援助の手を差し伸べることができるのです。

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