コンゴ北東部・スーダン南部:苛烈な暴力から逃げ惑う人びと ―朝食は25回の鞭打ち―
2009年08月27日掲載
朝食は25回の鞭打ち
「朝、僕たちは25回鞭でぶたれました。それが朝食代わりでした。」
コンゴ民主共和国(以下「コンゴ」)北東部に住んでいた16才のムボリは、1月に村が襲撃を受けた際、兄弟のムカを含む他の20人の生徒と共に学校から拉致された。彼の村は、ウガンダの反政府勢力「神の抵抗軍」による絶え間ない襲撃の標的の一つとされたのである。
ムボリは言う。「僕たちは彼らが学校や村から略奪した物を運ばされました。彼らは「早く歩け、静かに歩け」と言いながら僕たちを殴りました。僕は腰の高さまである大きな袋に入った自転車部品を運ばされました。他の人たちも数キロもの挽いたナッツや米袋、さらにはギターや村の教会から奪ってきた太陽熱利用設備まで運ばされていました。」
ウガンダ、コンゴ、スーダン南部の各国軍が「神の抵抗軍」に対する共同軍事作戦を行ったことで状況はさらに悪化し、「神の抵抗軍」はコンゴ北東部で一般市民に対するさらに激しい報復攻撃を開始した。こうした襲撃を受けてコンゴでは村の全てが略奪され、しばしば焼き払われ、人びとは斧でたたき殺された。女性と子どもは性的な奴隷、略奪品の運搬役、そして戦闘時の兵士にする目的で拉致された。

ムボリはコンゴの学校で「神の抵抗軍」により拉致された。
彼は今、スーダン南部で難民となっている。
ムボリは続ける。「彼らは通行人を僕の目の前で殺しました。棒で殴り、銃剣で突いて、死体を川に投げ込んでいました。もし立ち止まって休んだら自分も殺されてしまうのではないかと怖くなり、袋の重さに耐えながら必死で歩きました。」
公式の推計によると、25万人に及ぶコンゴ人が自分の土地と生活を捨てて難民となっている。家族全員が引き裂かれ、人びとの心は恐怖に支配されている。何万人もの人びとが安全と援助を求めて、コンゴと国境を接する隣国スーダン南部の中央エクアトリア州および西エクアトリア州に避難した。しかし「神の抵抗軍」はこれらの州でも軍事行動をしており、散発的な襲撃によって数千人のスーダン人が国内避難民となっている。国連人道問題調整事務所の推定によれば、東西エクアトリア州におけるコンゴ人難民およびスーダン人国内避難民の数は合計で5万人に上る。
死者を埋葬する間もなく
3日後、「神の抵抗軍」はムボリと他の数名の少年を解放したが、その中に彼の兄弟ムカは含まれていなかった。ムボリは走るよう命じられ、ムカに別れを言う時間さえなかった。家に戻ってみると、村ではすべてが破壊され、1人残らず逃げてしまっていた。

コンゴからスーダン南部の中央エクアトリア州にあるニョリ
難民キャンプを目指して逃げる難民の一団。
「両親は僕たちの消息を知ろうと、近くの森に隠れて留まっていました。ムカがまだ解放されていないと話すと、父は泣き出しました。しかし彼を待つわけにはいかない、ここから逃げなければならないと言いました。」
直接の攻撃から逃げる際の混乱の中では、歩みの遅い者や高齢者のペースに合わせる余裕も、死者を埋葬する時間もない場合が多い。一方、ムボリとその両親のように新たな暴力や殺戮を恐れて避難する人びとは、必死でできる限りの家族と財産を集め、家やそれまでの生活を捨てて国境を越える危険な旅を始めるのである。
人びとはコンゴとスーダン南部を結ぶ雨の多い、密集した熱帯雨林を抜けて避難する。「神の抵抗軍」を絶えず警戒すると同時に、彼らは野生動物に襲われる危険にもさらされている。多くの人びとがジャングルの木の根を食べ、手に入るどんな水でも飲み、前方に障害物がないと確信できる場合にのみ前進することで生き延びている。
治安状況の悪いスーダンに避難場所を求めて
スーダンに入ると、難民は新たな難民キャンプに助けを求めるか、またはスーダン人の集落内に小屋を建てる。彼らは大勢でいることでより安全を確保しようと、できる限り近くに集まって大きな集団を形成している。また、後に残してきた、または拉致された家族の消息を新たに到着する人びとから聞けることを期待して、コンゴから来る道の近くに留まっている。次の収穫期までに何らかの作物を育てることを願い、コンゴにある自分の畑まで戻って手入れをする者もいる。

コンゴとの国境に近い、スーダン南部中央エクアトリア州
にある難民キャンプ内の小屋
しかし、スーダン南部一帯も緊張状態にあり、いくつかの地域では戦闘が激しさを増し、人びとが極貧に陥ったり基本的な社会サービスが機能していないといった深刻な状況が生じている。コンゴと国境を接する州では、さらなる襲撃を恐れたコンゴ人難民やスーダン人の複数のグループが、自分たちで身を守ろうと武器を作り地域の見回りを行っている。
MSFのスーダン南部における活動責任者、カール・ナウェジは語る。「これらの人びとが、さほど安全とは言えない地域に安全を求めて避難しなければならないとは、なんと悲しいことでしょうか。スーダン南部の各地で活動しているMSFの医療チームは、既にスーダンの人びと自身が必要としていた援助を提供しようと格闘していました。それでも、コンゴ人の患者たちは、『神の抵抗軍』がこの地方でも活動しているにも関わらず、ここの方が幾分か安全な気がすると言っています。」
2008年9月、コンゴ人難民が国境を越えて流入し、またスーダン人の国内避難民もコンゴとの国境州内に移動し始めたことを受けて、既にスーダン南部で医療援助を提供していたMSFは直ちに緊急対応プログラムを立ち上げた。西エクアトリア州で活動していた複数のチームが、合計で1万5千人を超える難民および国内避難民に対し医療、避難用住居、衛生設備を提供し始めた。その後、2009年2月には中央エクアトリア州で7千人の難民を援助するために第二次の緊急対応プログラムを開始した。
ナウェジは続ける。「難民には緊急のニーズがあります。ある難民キャンプで診療所を開設したところ、最初の1週間で500人が訪れました。出産を間近に控えた女性がジャングルを抜けて知らない国へ逃げ、そこで出産しなければならないという状況を想像してみてください。私たちは彼女に子どもを安全に産める場所、分娩介助を受けられる場所を提供し、こうした境遇の人が尊厳を持った扱いを受けることができるようにするために活動しているのです。」
心の平和を打ち砕かれて
医療、食糧、住居、衛生設備はこうした暴力の被害者にとってすべて不可欠な援助の項目である。しかし、これらは人びとが必要としている癒しの一部に過ぎない。常に襲撃の恐怖に脅えて暮らし、多くの難民は深く心の傷を負っている。彼らは家族を失っただけでなく精神的な安心感も失っており、心の平和が打ち砕かれてしまっている。MSFのチームは、拉致から逃れてきた女性と子どもを含む暴力の被害者を対象に、特別の心理ケアプログラムによる対応を試みている。MSFのカウンセラーがグループ療法や個別カウンセリングを実施すると同時に、暴力による心理的な影響やどのようにして助けを求めればよいかについて、集団の中での啓発活動も行っている。これまでに300人以上の人びとに対して心理ケアを提供した。
中央エクアトリア州の難民キャンプにおけるプログラム責任者、フランチェスカ・マンジアは回想する。「私はある女性のことを決して忘れないでしょう。彼女はいつもキャンプ内の木の下に座ってすすり泣いていました。娘が目の前でレイプされた後に拉致され、その生死もわからないのです。暴力によって人びとの生活は破壊されました。あたりが暗くなった頃に村への襲撃が始まったため、夜になっても目を閉じるのが怖くて眠れないのです。」
毎週、コンゴから国境を越えてスーダン南部に入る難民が後を絶たない。いつ暴力が止むのか、再び家に帰れるか定かではないため、難民および国内避難民の暮らしは絶望と先行きへの不安に支配されている。
スーダンに到着してから4ヵ月が経ったムボリのもとに、兄弟のムカが何とか「神の抵抗軍」の下から逃れることに成功し、コンゴの病院に入院しているという良い知らせが届いた。父親は国に戻ってムカを見つけようとしたが、コンゴへと通じる道があまりにも危険すぎるため不可能だった。安全だと思えたらもう一度試みるつもりだ。それでもムボリとその家族の生活の見通しは暗いままだ。
「ムカのこと、そして自分たちの将来のことが不安でたまりません。『神の抵抗軍』は僕の故郷コンゴを襲っているのです。僕はスーダンに避難しましたが、『神の抵抗軍』はこの国でも活動しているのです。将来についてなど考えようがありません。どんな将来があるというのでしょう?」
![]() ジャスティンは半身不随の障害をもつコンゴ人少年である。父親は「神の抵抗軍」に殺害された。襲撃の間、彼はトイレの裏に隠れていた。その後、自転車の後部座席に乗せられてスーダン南部まで運ばれ、今は高齢のスーダン人女性に面倒をみてもらっている | ![]() ムボリは胸を痛めている。彼と両親はスーダン南部で難民として事実上身動きが取れない状況にあり、終わりの見えない暴力によりコンゴとの国境を越えて兄弟のムカと再会することができずにいる。 |
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