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バングラデシュ・インド:サイクロン「アイラ」被災地で活動する医師が語る「終わりの見えない大惨事」

2009年07月16日掲載

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ホマ・マンソールは、インド西部のムンバイで国境なき医師団(MSF)のHIV/エイズ診療所に勤める34才の医師です。サイクロン「アイラ」がインド東部を直撃してから1ヵ月が過ぎても、多くの地域で今なお基本的なニーズに対する援助が緊急に必要とされていることがMSFの調査によって判明したため、彼女は被災地の西ベンガル州に派遣されました。MSFは同州で最も深刻な被害を受けた地域の住民1万5千人に救援物資を配布する計画です。マンソール医師は、西ベンガル州の北24パルガナ県サンデシュカーリ地域で医療監視スシステムを立ち上げるチームに参加しました。


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「私は生まれも育ちも西ベンガル州ですが、この地域を訪れたことはありませんでした。私の知るベンガルは、コンクリートのビル群と活気あふれる中流社会でした。しかしここは全く逆です。人びとは泥の家に住んでおり、社会の経済階層における最下層を形成しています。農業と漁業で生計を立てる農村地帯です。今回は私にとって初めての災害後の緊急援助であり、社会や祖国に恩返しができるいい機会でした。洪水を経験したことはありましたが、ここで目にした壊滅的な被害とは比較にならないものでした」。

悲惨な状況
ここはデルタ地帯です。川の中州に住んでいた人びとは、より高い位置にある土手や堤防への避難を余儀なくされ、そこに急場しのぎの小屋を建てました。私たちが訪れた村の中には、今なお不衛生な状況で1軒に平均6世帯が集まって生活している地域もありした。この大惨事には終わりがないように思えます。最初は水が引き始めて状況は落ち着くと見られましたが、その後高潮になって、あたり一面が再び水に沈んでしまいました。悲惨な状況です。人びとはすべてを失い、立ち直れる望みもほとんどないまま、もう1ヵ月以上もこうした厳しい生活状況から抜け出せずにいます。

村の住民の絶望はありありとわかります。私たちがダバパラットとゴラマリという村を訪れた時、午前9時30分に救援物資の配布を開始しました。午前11時30分に潮が満ちてきて、水位が上昇し始め、わずか数分で首の高さになりました。ボートの数が足りなかったので、人びとは救援物資を頭に乗せ、あごまで水に浸かって水中を歩いて避難せざるを得ませんでした。

毒ヘビ
ダバパラット村の住民はごくわずかの援助しか受けていませんでした。私たちが到着した時、住民たちはもう待ちきれずに、救援物資の配布をめぐって争いを始めました。

繰り返し高潮が襲う中、泥まみれの湿地で、必死に生き延びている話を住民たちの口から聞くと、恐ろしく、悲しい気持ちになります。人びとは今後のこと、水中に生息する毒ヘビのこと、避難所の不足などについて心配しています。雨をしのぐために数世帯の家族が1枚のビニールシートを共有するケースもしばしばです。食糧の配給は十分ではなく、海水が田畑に流れ込んだためにもう作物を育てることもできません。主な生活手段が失われてしまった現在、人びとの生活がどれほど厳しいものかおわかりになるでしょう。

飲料水は汚染されており、トイレはすべて水びたしになり、人びとは川で用を済ましています。サイクロンによる被災から1ヵ月を経ても状況がこれほどまでひどいとは、想像もしていませんでした。

警戒医療の状況監視を実施するにあたって、現状を調査し、考えられる病気の発生リスクを査定するため、保健指導員と私は地域の看護師たちに会いました。私たちは下痢、マラリア、はしか、その他の病気の症例を調べ、調査の合間に数人の患者を診察しました。これまでのところ病気の流行は確認されていませんが、このように劣悪な衛生状態に置かれ、清潔な飲料水が全くない状況では、人びとは病気にかかりやすくなり、流行のリスクも高まるため、ひき続き警戒しなければなりません。

私たちが訪問した村々では、症例の70%が下痢関連でした。全体として、住民5千人あたり看護師がひとりしかおらず、薬もほとんどありません。診療所は遠く離れており、交通手段は限られていて、患者の搬送も困難です。ある村では、洪水のなかボートが不足したため患者を診療所にすみやかに連れて行くことができず、2人が亡くなったと看護師が語ってくれました。しかし、大半の村では現在の健康状態は許容できるレベルです。

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綱渡り
これほど大量の泥は見たことがありませんでした。私はジョギングシューズで現地入りしました。長い距離を歩くのに適しているだろうと思ったのです。でも実際は全く逆でした。私たちは深い泥と水の中を歩いて渡らなければなりません。大変滑りやすいので、靴も長靴も履いて歩くなど論外です。まさに綱渡りなのです。私は初日に泥の中で転びましたが、今では竹の上でも泥の中でも洪水で溢れた水の中でも少しはうまく歩けるようになったように思います。一日の終わりには全身泥だらけになります。こんなにシャワーを心待ちにしたことは今までありませんでした。私自身にとっては興味深い経験であり、冒険でした。時には救援物資の配布に現地の小舟を使わなければならないこともあります。高潮の間は水流が速く、舟の操縦が難しくなります。泳ぎのできるスタッフはごくわずかなので、全員が救命胴衣を身につけます。

村の住民は、私たちが安全に歩けるように、泥の中で人間の鎖を作って手助けしてくれます。人びとは洪水には慣れっこですが、これほどの規模は初めてです。村に大量の水が流れ込む様は、住民にとってかなりの衝撃でした。水面の上にかろうじて見えている自分たちの家の屋根を指さして教えてくれることもあります。人びとには立ち直って生活を再建する手段が全くありません。海水が流れ込んで水田は使えなくなりました。収穫した作物も穀物の蓄えも洪水がさらってしまいました。人びとはいま援助に頼っており、土地が再び豊かになるまで何年もかかるだろうと考えています。モンスーンの季節が始まるとさらに泥が流れ込み、病気の発生のリスクも高まると思われます。これからの数ヵ月は、住民にとって特に厳しい時期となるでしょう。

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