シャーガス病との闘い:今こそ診断と治療に集中すべき時
2009年07月09日掲載
MSFはシャーガス病の蔓延国での診断・治療の実施と、新薬、迅速診断検査および経過検査法のさらなる研究開発を求める

シャーガス病感染の有無を検査で確認するところ。
シャーガス病発見から100周年にあたる今年、国境なき医師団(MSF)はシャーガス病への取り組みを訴えるキャンペーン「シャーガス病:今こそ沈黙を破る時」を開始する。MSFはシャーガス病の蔓延国に対して、感染者を顧みない状況を終わらせ、病原媒介生物の抑制だけに集中するのではなく、患者の診断と治療を支援するように求める。MSFはまた、世界でもっとも顧みられない病気のひとつであるシャーガス病治療のための新薬、設備の整っていない地域での使用に適したより迅速な診断検査、そしてより優れた経過検査のための研究開発を強化するよう呼びかけている。
推定1千万人から1500万人の人びとがシャーガス病に感染しており、毎年1万4千人が命を落としている。この病気はラテンアメリカの数ヵ国で蔓延しているが、人びとの世界各地への移住が頻度を増した結果、米国、ヨーロッパ、オーストラリア、日本でも症例が報告されるようになっている。シャーガス病は治療しなければ死に至る恐れがあるが、これまで各国政府は患者の治療よりも予防や病原菌媒介生物の抑制に主眼を置いてきた。この病気の治療が一次医療機関で導入されれば、患者はより治療を受けやすくなる。
シャーガス病はクルーズ・トリパノソーマという寄生虫の媒介(感染)により引き起こされる感染症である。ラテンアメリカの大部分の国では、病気を媒介するサシガメという吸血昆虫の糞便内にひそむ病原体が、皮膚を経由して感染するのが一般的。次いで慢性感染母から子へと垂直感染することもある、更には輸血、臓器移植などの感染ルート、最近では汚染アサイ椰の生ジュースやサトウキビジュースからの経口感染報告されている。感染者は感染後の数年間は症状が現れない場合があるが、慢性期に入ると3人に1人の割合で心臓疾患や消化器の機能不全などの深刻な健康問題を引き起こし、死に至る場合もある。MSFのシャーガス病担当オフィサーであるニニェス・リマ医師は説明する。「主な問題のひとつに、感染しても何年かは症状が現れないので、患者が自分の感染に気づかないで治療を受けずにいることが挙げられます。感染者を見つけ出して治療を行うためには、積極的なスクリーニングや診断を行うことが必要不可欠です。」
病気の診断が早ければそれだけ治療の効果も高い。現在、シャーガス病の治療薬はベンズニダゾールとニフルチモックスの2種しかない。これらは35年以上も前に開発されたもので、特にシャーガス病に焦点を絞った研究によって開発されたものではない。これらの治療薬は新生児や乳児に対しては非常に有効ではあるが、それよりも年齢の高い思春期の子どもたちや成人の治療の治癒率は60~70%にすぎない。患者の年齢が高くなればなるほど、薬による副作用を引き起こす可能性が高くなる。MSFのボリビアにおける活動責任者、トム・エルマン医師は語る。「この国の医師たちは副作用を恐れて大人はもちろんのこと、子どもに対しても治療を行おうとはしません。MSFは、こうした副作用はどちらの場合でも管理できることを伝えています。患者を治療しないでいることはもはや倫理上許されることではありません。」
しかし、シャーガス病に対するよりすぐれた治療薬の開発は依然として急務である。この感染症は主に貧困と関連しているため、何年もの間、政治的課題や研究開発の対象外であった。G-Finder (Global Funding of Innovation for Neglected Diseases)が行った最新の調査によると、2007年にシャーガス病の研究開発に対して費やされた金額は、わずか1010万ドル(約9億6千9百万円)に過ぎなかった。
この病気に対してより有効に取組むためには、新たな診断検査法、より優れた治療薬、そして新たな経過検査法を開発するための研究開発の促進が不可欠である。MSFのシャーガス病キャンペーン担当、ジェンマ・オーティスは語る。「商業的インセンティブがなかったために、シャーガス病は何十年にもわたって顧みられないままでした。研究開発を促進するための新たな方法や患者を治療するためのよりよいツールを見出すことが必要です。」
今後数カ月間にわたって、MSFはシャーガス病に対する認識と取り組みを深めるためのキャンペーンを実施します。シャーガス病や、その感染者数と実際に治療を受けた患者数の大きなギャップに関する詳細は、http://www.msf.or.jp/news/2009/07/1902.phpをご覧ください。また、この顧みられない病気についての情報をご友人に知らせてください。それにより、あなたもMSFのキャンペーンに参加し「沈黙を破る」ことができます。
MSFは1999年からシャーガス病に取り組むプログラムを複数国で行っている。現在は、世界的にもシャーガス病の感染率が高いボリビアのコチャバンバ郊外の3ヵ所でシャーガス病の治療プログラムを行っている。このプログラムはボリビア保健省と協同で行っており、5ヵ所の基礎医療診療所で子どもや50才までの大人が診断および治療を受けている。同様の手法を用いて、コチャバンバ地方の農村地域でも新しいプログラムの立ち上げを行っている。この新たなプログラムでは、病気を媒介する寄生虫がより多く蔓延しているこの地域で、予防、診断、治療の全てにおいて地域社会との共同体勢で取り組んでいる。
2008年末までに、MSFは6万人以上に対してシャーガス病の診断検査を実施し、3100人の患者を治療し、そのうち2800人が治療を完了した。この結果は、現在の治療法が理想的なものではない状況において、設備の整っていない地域や遠隔地域においてもシャーガス病の診断および治療が可能であることを実証している。
シャーガス病の特集ページおよび報告書は以下のページをご参照下さい:
http://www.msf.or.jp/news/2009/07/1902.php
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