イラク:バスラにおけるプログラム責任者へのインタビュー
2009年05月18日掲載
イラクでは現在も紛争が継続し、人道援助団体が同国内に留まり活動を行い続けることが困難になっている。そうした中、国境なき医師団(MSF)はイラクの人びとに医療ケアを提供するために懸命の努力を続けている。2006年以降、アンバル県、タメーン県、ニナワ県、北部のクルド人自治区スレマニヤ、首都バクダッド、そしてバスラにおいてMSFは医療プログラムを提供してきた。MSFはまたヨルダンでもイラク紛争の負傷者を対象にした外科治療プログラムを運営している。
カリル・サヤドは、イラク南部バスラにおいてプログラム責任者として9ヵ月間におよぶ活動を終えて帰還したところである。サヤドは2004年以降、イラクにおけるMSFの活動拠点を築くために現地に派遣されたMSF外国人派遣スタッフのチームの一員である。2004年には、極度の治安悪化を受けて同国から一時退避を余儀なくされた。
Q. 2008年にMSFがバスラにチームを派遣することになったいきさつは?
A. 2008年3月にイラクの政府軍がバスラで民兵に対する軍事作戦を開始した際、私たちはバスラとナシリヤにある総合病院に医療物資を提供しました。この紛争から数ヵ月が経過するうちに、治安状況が徐々に回復してきました。その結果、私たちは同地域で援助ニーズの調査を実施したり、外国人派遣スタッフやイラク人スタッフによるプログラムの開始を検討することができるようになりました。住民にとって、外国人がバスラに戻ってくるのを見ることは治安が安定し、回復に向かっていることの兆しなのです。また私たちは医療スタッフをトレーニングし、最新の医療技術や設備を提供していたので、このことはそれまではイラク国内では不可能であった重症患者に対する治療が今後は可能になるという希望をもたらすものでもあったのです。
Q. 調査の結果、どんなことが判明しましたか?
A. 治安状態は回復したとはいえ、まだまだ不安定でしたので、私たちの調査は病院に焦点を絞ったものとなりました。病院施設には技術が高く、経験豊かな内科医や外科医が勤務していましたが、医療面の技術刷新が急務でした。また過去数10年間にわたる紛争の間、彼らは非常事態に対応するために複数の患者を同時に手術室に受け入れざるを得ず、その際には基本的な基準がすべて忘れられていました。この「非常事態モード」が彼らの標準になっており、手術室は最低限の基準も満たされていない状態でした。例えば、術後回復室は存在せず、患者のモニタリングも行われていませんでした。使用済みの器具滅菌処理は不適切で、衛生処置の手順書も作成されていませんでした。これらはどれもすべて術後感染症のリスクを増加させるものです。もう一つの大きな問題は麻酔に関わるものでした。外科手術そのものには多大な注意が寄せられていましたが、麻酔や臨床ケアについては十分に重きが置かれていませんでした。さらに、彼らの元には過去数年間に寄付された多くの設備機器がありましたが、自分たちでそれらを設置・使用・維持または修理することができていませんでした。
Q. MSFはどのような種類の活動を行うことにしましたか?
A. 私たちは、緊急医療部門が大きく立ち遅れていて、援助の需要があることを確認し、この分野で活動を行うことが可能かどうかを検討しました。しかし病院のスタッフはその拡充を開始するのは時期尚早であると考えており、私たちもその意見に賛成しました。MSFはこの国に復帰したばかりでしたし、バスラでは依然として治安に問題がありました。そこで、私たちは一般の外科手術室のサービス改善に努めることに決め、患者に対して術前・術中・術後における適切な治療を確保することに努めました。この分野でかなりの好影響を及ぼすことができたと思っておりますし、同時に比較的安全な環境で活動を行うことができたと考えています。それにMSFにとって、イラク国内にとどまって援助活動を再開するための良い機会になりました。と同時に、事態が許せば緊急医療ケアの活動を再開するという目的も維持し続けました。
Q. 手術室の支援では、予定通りの効果を生むことができましたか?
A. この9ヵ月間に、物事は大きな変貌を遂げました。第一に、衛生状況が大きく改善されました。例えば、現在は手術が終わると毎回次の患者を入れる前に部屋を掃除しており、本来はそうしなければならないものなのですが、以前は実行されていませんでした。また、ひとりの患者に注射器は1本といった世界標準の予防措置を導入し、医師たちが行うべき手術の実施手順を変更しました。今では衛生や滅菌については世界基準に沿っています。十分に機能的な術後回復室も立ち上がりました。患者たちは手術後の回復期に適切にモニタリングされています。私たちは生物医学関連の装置を数台購入し、他の正常に機能していなかった装置も修理しました。今では滅菌器、モニター、人口呼吸器、麻酔台、そして吸入器のどれも正常に動いています。また故障していた手術室の汚水処理設備も修理しました。このようにして、何とか患者に対する医療ケアの質を高めることができました。そして最も重要なのは術後感染症のリスクを低下させ患者の苦しみを減らすことができたことです。病院内のすべての外科医、病院長、そしてイラク保健省バスラ事務所の所長もそれを認めてくれています。これは私にとって大きな成果でした。MSFの活動は病院の同僚たちからも評価されています。そして今、バスラでの活動をさらに拡大するための扉が私たちの前に開かれています。
Q. MSFのバスラにおける次なるステップはどのようなものになりますか?
A. 緊急医療です。バスラ総合病院はバスラにおける緊急医療の中核病院であり、市内の救急車のほとんどすべてがそこに向かいます。しかし、住民の期待と実際に提供されているサービスには大きなギャップがあります。私たちは数週間以内に緊急治療室での活動を開始する予定です。私たちは患者の管理面でかなり大きな変化をもたらすことができると思います。病院への到着からトリアージ、そして治療までの手順を手早く短時間で行うことによって時間のロスを減らし、重症の傷を負った患者あるいはその他の緊急患者の命を救う確率を高めることができます。
MSFはアンバル県とバグダッドにおいて、医療スタッフのトレーニング、心理ケアのカウンセリング支援、医療物資の提供によって8ヵ所の病院を支援している。北部の行政区域内にあるタミーン県とニナワ県では5ヵ所の病院で、医療物資の提供、医療スタッフのトレーニング、急患への対応の支援および健康教育キャンペーンを行っている。またドホーク県に避難してきた人びとに対して、心理ケアを提供している。同国北部のクルド人自治区スレマニヤでは、火傷治療の専門病院で診療を行っている。この病院は、月平均100人の重度の火傷患者を受け入れており、外来部門では1600人の患者に治療を提供している。
イラクは世界の中でも紛争の影響の深刻な地域のひとつであり、活動は困難である。MSFはイラクの人びとに価値あるサービスを提供し続けるため、ヨルダンにおいてもプログラムを立ち上げた。2006年以降、MSFはイラク紛争の負傷者向けにアンマンで再建外科手術を行っている。これまでに660人以上がこのプログラムを通じて外科手術を受けた。
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