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ジンバブエ:医療制度の崩壊-もはや対処しきれない状況-

2009年05月08日掲載

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MSFが支援するエプワースのHIV診療所の前で診察を待つ人が長い列を作っている。
MSFが支援するエプワースのHIV診療所の前で
診察を待つ人が長い列を作っている。

ジンバブエの社会経済機能の破綻の末に、国民は医療制度崩壊の直撃をもうけている。国土は大規模なコレラ禍に襲われ、栄養失調に陥った子どもたち、そして多数のHIV患者が必要な治療を受けられず命を落とし続けている。あまりにも膨大な医療ニーズのすべてにMSFが応えることは不可能であるが、MSFのHIV治療プログラムに携わる医師は、助かる見込みのある患者の救命に重点的に取り組む必要性を強調している。

エプワース住民の幸運

首都ハラレ近郊の町、エプワースで国境なき医師団(MSF)が支援しているHIVの診療所には、医師と看護師がいて医薬品や医療物資も揃っている。国の医療制度がほぼ機能不全に陥っている現在のジンバブエでは、正常に運営され、無料で医療を提供している診療所は珍しい。

ジンバブエの医療機関の医療スタッフは、インフレによって給料の価値がほとんどなくなったため実際にはもう1年以上も給料が払われていないに等しく、昨年11月から職場を欠勤し始めた。その結果、診療所はほぼ空となり、基本的な医療物資が不足し、適切な医療を提供できない状態に陥った。最近になって、いくばくかの手当と食糧引き換え券を支給された一部のスタッフが戻ってきた。しかし、ジンバブエの保健省が本年3月に発表したところによると、医師のポスト全体のうち68%、そして看護助産師のポストのうち80%もがまだ欠員となっている。現在も機能している医療施設は、治療費の支払いを米ドルで請求し始めており、そのため大多数の国民にとって医療は完全に手の届かないものとなっている。

診療所が機能しているとはいえ、エプワースでMSFが提供しているのはHIV陽性患者のための医療である。エプワースで活動するMSF医師、メラニー・ローゼンヴィンジはこう語る。「確かに、ここでは、HIV陰性よりもHIV陽性であった方がいいという意識が人びとにあります。その方が確実に医療ケアを受けられるからです。」移送できる医療施設が他にないため、エプワースで活動するMSFのチームは、診療所ですべての患者に対応し始めた。その結果、患者の数は手に負えないほどに増えた。エプワースにおけるプログラムの活動責任者、ステファニー・ドレスラーは無念そうに語る。「診療所は極めて病状の重い患者であふれ、死亡率も高くなっています。人びとは瀕死の患者を運んで門口にやってきます。『どうか助けて下さい。ここしか頼る場所はありません。』と言って。しかし私たちはすべての人を救うことはできません。それは不可能なのです。」

医療制度崩壊の影響

南西部の都市グウェルでMSFが展開しているHIVプログラムも、公的医療制度崩壊の影響を受けている。一部の患者と接触できない状況にあるためだ。プログラムの活動責任者、クローディア・ステファンは言う。「母子感染予防プログラムに多大な影響が生じています。」母子感染予防の目的は、HIV陽性の母親から胎児へのウイルス感染を予防することである。このプログラムに妊婦を受け入れるには、出産以前に彼女たちと接触する必要がある。妊婦は各診療所で産前ケアの登録をしなければならないが、その支払いは米ドルで求められる。公共の診療所は外国通貨で費用を請求しているため、女性たちは今や診療所に来ようとさえしないという。ステファンは語る。「数週間で、産前ケアに登録した女性は1人だけでした。何らかの解決策を見つけなければ、母子感染予防プログラムが完全に失敗してしまいます。」

全国で請求されている新たな医療費は、ほとんどの国民にとって全く手が届かないほど高額である。エプワースから最も近い、現在も機能しているチトゥンギザの病院では、公的医療制度によって診察1回につき8米ドル(約784円)が請求され、1泊入院すると48米ドル(約4708円)に達してしまう。そしてすべての費用を患者が負担しなければならない。例えば看護師が手袋を使用した場合には2米ドル(約196円)、点滴を受けた場合には20米ドル(約1960円)が請求される。ジンバブエ国民の過半数は月収が30米ドル(約2940円)を下回っており、たとえこうした収入があったとしても、大抵は大勢の親族を含めた家族を養うために費やされる。そして、多くの人は外貨での収入を得られたためしがない。首都ハラレ郊外に住む57才のMSFボランティア、メアリーは強い口調で言う。「そもそもここの人たちは、米ドルそのものさえ知りません。見たこともなければ、何色をしているのかも知らないのです。」

多数のHIV患者

医療制度の崩壊と時を同じくして、ジンバブエ国民は史上最悪の健康面での危機に苦しんでいる。公式なHIV感染率は18%とされているが、MSFが活動している各地方では、非公式な推計値はこれよりもはるかに高く、まず間違いなく20%を超えているとみられる。すなわち、エプワースだけとってみても恐らく12万人がHIV陽性であると考えられ、その半数には直ちに抗レトロウイルス薬治療(ARV)を開始しなければならない。MSFはエプワースでこれまでに1万人を超えるHIV患者をプログラムに登録し、このうち7千人以上に継続的なケアを提供している。エプワースにおけるプログラムの活動責任者、ドレスラーはこう語る。「単純に計算すれば、私たちが対処できる数を超えています。」

それでも、エプワースの住民は恵まれている。ドレスラーは言う。「ハラレ全域から、人びとがエプワースへの密かな流入を試みています。」他の地方の住民はエプワースに住んでいると主張するために、エプワースの住民にいくらかのドルを支払っているという。MSFは保健省との取り決めによってエプワースでの活動しか許可されていない。「他の地方の住民たちは必死なのです。」とドレスラーは指摘する。

ハラレ近郊のクワザナ地区に住む37才のヴェロニカには4人の子どもがいる。夫は昨年エイズのあらゆる症状を発して亡くなったが、自分の病気を確認するために病院を訪れることは一度もなかった。ヴェロニカは言う。「私は検査を受けてARV治療を始めたいと思っています。」自分の身に何か起こったら、子どもたちの面倒をみてくれる人が誰もいないことを自覚しているのだ。しかし、ARV治療を開始するには、ウイルス感染の程度を測りこの治療の必要性を確認するための、いわゆるCD4数値の検査を受ける費用を支払わなければならない。彼女と妹は、合計8人の子どもを抱え、市場で野菜や魚を売って月にせいぜい20米ドル(約1960円)を稼ぐのが精一杯である。

コレラ禍

この国は過去1年間、HIVとは別の疫病、すなわちコレラに苦しめられてきた。ヴェロニカとその家族のうち5人もコレラから回復したばかりである。コレラはジンバブエに想像を絶する規模で襲いかかった。4月14日現在、世界保健機関(WHO)の推定によれば、ジンバブエにおいてこれまでに9万6300人がコレラに感染し、4195人が死亡した。MSFはこうした人びとに対して国内全域の数十ヵ所に設置したコレラ治療センター(CTC)でケアを提供してきた。しかしここでも、医療インフラ崩壊の影響が強く表れている。

MSFコレラ緊急対応チームの看護師、ハイジ・レーネンは言う。「どのCTCでも同じことが起こっています。コレラを患っていなくても、人びとは何らかの医薬品を入手するためCTCの中に忍び込もうとするのです。」そしてその理由をこう説明する。「私たちが実際に人びとを治療しているからです。」ハラレのCTCで活動するMSFの現地スタッフ、リリオーサ看護師も同じ意見である。「人びとは単に抗生物質か何かを手に入れるためにやって来て、中へ入れてくれと必死に頼んできます。」彼女はこう語りながらも、CTCは厳密にコレラ患者のみを対象としなければならないため、こうした人びとを中に入れることはできないと指摘する。

栄養失調

これらの疫病と相まって、状況を一層悪化させているのは、多くの国民が栄養失調に苦しんでいるという事実である。特に顕著なのが子どもの栄養失調だ。MSFはエプワースで2年前に集中栄養治療センター(TFC)を開設したが、この1年、栄養失調の子どもの数は倍増している。収穫期の狭間となる11月から3月にかけてのピーク時には特に顕著となる。TFCを担当しているMSFの看護師ミシェルは、その日ケアしている30人近くの幼い子どもたちを見渡しながら言う。「少なくとも毎週1人から2人の子どもが命を落としています。」半数の子どもは栄養チューブを付けられている。ミシェルの説明によれば、彼らはあまりにも栄養失調の程度が激しく、身体が活動を停止してしまっており、食べることを受け付けない状態に陥っているために必要な措置だという。ほぼ毎週、このTFCでは400人から600人の栄養失調の子どもを治療している。

HIV患者を対象とした診療所で活動するMSFの医師、ローゼンヴィンジは、1日に1人から2人亡くなることもあるという、子どもたちの死が最もつらいと語る。「私が診察した子どもで最初に亡くなったのは、7才の女の子でした。私はその死に対して何もできませんでした。これは心に傷を残す出来事ですが、少し心を鬼にして、自分はこの状況で最善を尽くしたと言わなければなりません。そしてその日の終わりには、医療制度全体がこのような壊滅状態に陥っているのは自分のせいではないと自分に言い聞かせなければなりません。」

死体安置所すらも機能不全

医療制度が機能していない現在、瀕死の病人はさらなる痛手を被る可能性がある。グウェルにおけるMSFのプログラム活動責任者、クローディア・ステファンはこう説明する。「グウェル州立病院は、院内の死体安置所が使えないために瀕死の患者の受け入れを拒否しています。親族がお金を用意できるまで遺体は何日間も放置されます。このため病院内で死者を出したくないのです。」

エプワースでも同じ問題が生じている。MSFの診療所から患者を送り込むことになっている基幹病院は、実際にはエプワースとは別の町にあり、そこに行くためには最低でも4米ドル(約390円)以上の費用がかかる。エプワースの診療所では、ほとんどの患者が親族の押す手押し車で運びこまれている。ここで活動するローゼンヴィンジ医師は言う。「親族の人びとに、もしその患者が亡くなったらその遺体を送り返すためのお金を用意できるかと尋ねなければなりません。これがどれほど恐ろしいことか、おわかりでしょう。」

助かる見込みのある患者の救命に重点的に取り組む必要性

ローゼンヴィンジ医師は快方に向かっている患者たちに重点的に取り組む必要性を感じている。その一例が、昨年エプワースで治療を開始したHIV陽性の女性、パメラだ。ローゼンヴィンジ医師はパメラが挨拶をしに歩み寄ってきた日を思い出して語る。「その姿を見て、私は泣きだしそうになりました。」パメラは1年4ヵ月の間、寝たきりだった。最初にローゼンヴィンジ医師が検査結果を調べた時、パメラには全く白血球がなかった。しかし現在、彼女は健康を取り戻している。ローゼンヴィンジ医師は言う。「あまりにも多くの患者がいます。しかし、治療をすれば回復する患者がいます。こうした人びとに重点的に力を注がなければなりません。」

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