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戦争の犠牲者:イラク人負傷者を治療するMSFの外科医

2007年06月26日掲載

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自動車に仕掛けられた爆弾によって、8才のアハメドは顔のほぼ半分をそぎ取られ、左目を失い、左足を切断された。昨年10月に起きたこの爆弾事件で、アハメドの外見はひどく変わってしまったため、彼の父親と叔父はバグダッドの病院の同じ病室に30分いたにもかかわらず、その少年がアハメドであるとは分からなかった。爆発でショックを受けたアハメドは口が利けなくなっていた。

通訳を通してアハメドの父親は語る。「アハメドは病室に一人でいたのです。家族の付き添いもなく、一人で切断手術を受けました。アハメドを知る人は誰もいませんでした。病院にいる一人の子どもにすぎなかったのです」。父と子が再会するには、それから3日を要した。

MSFチームによる再建外科手術の様子。アンマンの赤新月社病院にて。2006年11月撮影
MSFチームによる再建外科手術の様子。
アンマンの赤新月社病院にて。
2006年11月撮影

アハメドは顔を再建するための複合皮膚移植など何度も手術を受けたが、失敗に終わった。その後アハメドと父親は2006年12月にヨルダンのアンマンにある赤新月社病院に到着した。同病院では2006年8月以来、国境なき医師団(MSF)が戦争で負傷したイラク人のために再建外科プログラムを運営している。アハメドは2007年4月までに、広範囲に及ぶ顕微鏡手術を既に2度受け、さらに鼻と唇を再建するために最低でも3度手術を受ける予定になっている。このプログラムは開始以来、アハメドのような患者を210人受け入れてきた。

MSFはイラクにある多数の病院に必要不可欠な医薬品・医療物資を供給する活動も行っている。だが、アンマンを拠点とするこの外科手術プログラムは、イラク人外科医を中心とするスタッフが運営しており、治安悪化を受けて2004年11月にイラクから退避させざるを得なくなって以来、MSFのプログラムの中では最も直接的にイラク人を援助する試みになっている。

機能不全に陥った医療制度

イラクの医療制度は、同国における暴力によって最も深刻な犠牲を強いられているものの一つである。特にバグダッドでは、病院の医薬品や外科器具が不足し、電力の供給さえ十分ではない。物資面でのニーズに加え、イラク医師会の推定によると、2003年以前に登録されたイラク人医師3万4千人のうち半分以上が国外に脱出し、また少なくとも2千人が殺害されたという。

MSFで活動するイラク人整形外科医であるバサム医師は語る。「現在イラクで手術を受けるのはほとんど不可能です。状況はますます厳しくなっています。というのも、多くの医師がより安全な場所を求めてさらに北部へと移動したり、国外に脱出したりしているからです。その結果、専門医はどんどん減っています。そのうえ、医師は特に標的にされやすくなっているのです。2003年に戦争が始まって以来、多くの医師が誘拐されました。医師たちは辛い立場に立たされています。」

これらの要因が相まって大きな打撃となり、イラクの医療制度は壊滅的な状態になっている。このようなシナリオは日常的に繰り広げられている。つまり、攻撃で多数の死傷者が出るたびに、医療施設には負傷者があふれかえる。往々にして患者は、応急処置を受け、状態が安定すると家に送り返されてしまい、後になって合併症で苦しむことになる。特定の宗派や政党、また武装勢力が運営する病院に行きたがらない人もいる。

アンマンで活動するMSFの医療コーディネーターであり、イラクでトップクラスの整形外科医であるR医師は述べる。「負傷の時点から、避難時、緊急治療室、そして最終的な手術や待機手術に至るまで、イラクの緊急医療制度全体に非常に深刻な問題が見られます。診察を受けていない患者や傷に誤った処置をされた患者が数多くいますし、本来別な方法をとるべきだったのに不適切な手術を受け、後に合併症を発症する例も多数あります。」

アンマンまでの道のり

アンマンの空港から赤新月社病院にバスで運ばれるイラク人患者
アンマンの空港から赤新月社病院に
バスで運ばれるイラク人患者

アンマンでは、MSFの外科医が活動し、アハメドのような患者が手術から回復できるよう安全な環境を整えている。イラクにいる外科医がネットワークをつくり、MSFのプログラムに患者を紹介する。MSFチームは患者ごとに病歴を念入りに検討する。患者の受け入れが決定すると、アンマンに移送するための輸送手段や書類のすべてをMSFが手配する。これは困難で時間がかかる作業である。

重度の損傷に対応する先端技術医療

イラク人戦傷者が負っている損傷は複雑で重症であるため、対応するには今日使われている中でも最も革新的な先端外科技術が必要になる。アハメドの顔を再建するために、MSFの外科医はアハメドの背中から皮膚と筋肉を移植した。MSFの顎顔面を専門とする外科医は三次元コンピューターモデルを使って、手術前の計画と準備を行っている。

R医師は語る。「形成外科の症例としては、重症のやけど、瘢痕、動かなくなるほどの拘縮を治療しています。ここで行っているのは美容外科手術ではなく、機能を回復するための外科手術が主体です。手術には11~12時間もかかります。患者によっては手術を6~7回も受ける必要があり、入院は4~6ヵ月間にわたります。」

薬物耐性感染症

整形外科手術が必要な患者の半分近くは、アンマンに到着する時点で重度の骨や創傷の感染症にかかっている。このような感染症の多くは複数の抗生物質に耐性を持っている。イラクの病院が非衛生的な環境にあり、治療を受けるまでに相当待たされることから、患者は感染症にかかりやすくなっている。

R医師は述べる。「イラクから受け入れる患者は非常に重度の感染症にかかっています。イラクでは抗生物質の処方ミスや乱用が見られ、それが耐性菌の出現を招いています。このような耐性菌はほとんどの抗生物質に耐性を示します。例外は一つ、二つあるのですが、それは非常に高価な新世代の抗生物質なのです。」

第一歩にすぎないアンマンのプログラム

毎月平均で40人の新しい患者がMSFの治療プログラムを受けるためアンマンに到着する。MSFは受け入れ可能な患者数を倍以上に増やすことを目指している。しかし、プログラムを拡大したにしても、MSFが対応できるのは、適切な外科処置を受ける必要に迫られているイラク市民のほんの一部でしかない。MSFは引き続き、紛争に巻き込まれているイラク人に直接援助を提供する方法を検討している。

MSFは、イラクの紛争による犠牲者の証言をまとめたフォトギャラリーを作成しました。
こちらからご覧下さい。

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