人材求む!-HIV/エイズ治療の拡大に立ちはだかる、危機的な医療従事者の不足-
2007年05月30日掲載
アフリカのサハラ以南地域でエイズ治療を受けている人の数は、10万人から130万人へと増加した。それでもまだ、この地域で治療を要すると思われる人びとのおよそ70%は、治療を受けていない。5月24日に国境なき医師団(MSF)が発表した報告書は、「治療の拡大面で最も大きな障壁となっているのは、医療従事者の不足である」という事実を詳述している。この報告は、南部アフリカの4ヵ国、マラウイ、レソト、南アフリカ、モザンビークにおけるMSFの体験に基づいている。
背景
-2007年現在、未だに毎日8千人がエイズで亡くなっている。
-MSFの報告で取り上げられている4ヵ国で、エイズの治療を必要としているにも関わらず、受けられていない人びとの数は百万人を超える。
抗レトロウイルス(ARV)治療の実施範囲と需要
| 国名 | ARV治療を必要としている人びと | 現在治療を受けている人びと | 治療を受けられない人びと |
|---|---|---|---|
| レソト | 58,000 | 7,700 | 40,300 |
| マラウイ | 169,000 | 59,900 | 109,100 |
| モザンビーク | 237,000 | 44,100 | 192,900 |
| 南アフリカ | 983,000 | 265,000 | 718,000 |
-エイズ治療薬の価格が下がり、HIV/エイズ患者治療への財源も、2001年の20億米ドルからおよそ83億米ドルへと増加した。
-世界保健機関(WHO)は、「2010年までに、世界の誰もが治療を受けられるようにする」という意欲的な計画を立てている。
-しかし、医療にかかわる人的資源の増加については、ほとんど支援がなされていない。
危機的な医療従事者不足
-抗レトロウイルス(ARV)薬による治療を拡大していくにあたり、現在最大の障害となっているのは、増加を続ける患者に治療を行う医療従事者の不足である。
-WHOによると、世界中の病気で苦しむ人びとの25%がアフリカのサハラ以南地域にいるが、この地域の医療従事者の数は全世界の3%にすぎない(表参照)。
-この地域で働く数少ない医療従事者たちは、HIV/エイズの流行という難局に直面している。彼らはこの状況に圧倒され、疲弊し、過労状態になっている。
-医療従事者たちは亡くなったり、病に倒れたり、医療の現場を離れて海外に渡ったり、またはよりよい待遇を求めて民間機関に移ったりしている。
人口と需要に対する医療従事者の数
| 10万人あたりの 医師の数 | 10万人あたりの 看護師の数 | 10万人あたりの 医療従事者の数 | |
|---|---|---|---|
| WHOの最低基準 | 20 | 100 | 228 |
| レソト | 5 | 62.6 | 68 |
| マラウイ | 2 | 56.4 | 58 |
| モザンビーク | 2.6 | 20 | 34 |
| 南アフリカ | 74.3 | 393 | 468 |
| 米国 | 247 | 901 | 1,147 |
| 英国 | 222 | 1,169 | 1,552 |
国別データ
1.レソト
-15~49才までの成人のHIV感染率は、23.2%と世界で3番目に高い。
-毎年およそ2万3千人がHIV/エイズで亡くなっている。
-ARV治療を必要としている人のうち、実際に受けているのは40%にすぎない。
-国全体でも、医師の数はわずか89人で、その80%は外国人である。
-2百万近い人口に対し、1123人の看護師しかいない。
-171ヵ所の医療機関のうち、医療従事者の最低基準数を満たしているのは6ヵ所だけである。
-MSFが活動しているスコットの医療サービス区域では、HIVに関わる仕事の負荷が急増しているにも関わらず、医療機関における看護師職の半数以上は欠員になっている。
-この区域では、人口22万に対し医師は4人しかいない。
- 調査に応じたレソト人看護師65人のうち、47人(73%)は現職を離れることを考えていると回答している。
- そのうちの80%は、離職を考えている大きな理由として、もっとお金が欲しいからと回答している。職場での人手不足や仕事量の増加を理由に挙げる人びともいた。
- もっとお金が欲しいから、と答えた人びとのなかで、20人(43%)が5人以上の扶養家族を抱えている。
2.南アフリカ
-2005年時点で、HIV/エイズを抱えている人の数は550万人と推定された。
-15~49才の成人の18.8%がHIVに感染していた。
-2006年10月末の時点で、治療を必要としている患者数は98万3千人と推定され、そのうち実際に治療を受けているのは26万5千人だった。
-2000年から2005年にかけて、看護師を職業とする人の数は、10万人当たり120人から109人に減った。
-南アフリカのルシキシキ地域では、医療サービスの利用が2年間で倍増したものの、専門看護師の数は変わっていない。
-南アフリカが新たに掲げた2007-2011年国家HIV/エイズ戦略(NSP)は、HIV感染者の80%に治療を行うことを目標としている。
-この計画では、2011年までに、ARV治療を必要とする人びとの大部分が、病院の医師の代わりに診療所の看護師から治療を受けられるようにするとしている。
-民間の医療機関と公共の医療機関の格差、さらに都市部と農村部の格差の是正が、最大の難関となる。
3.モザンビーク
-モザンビークのHIV/エイズ患者は180万人で、成人の罹病率は16.1%である。
-2006年末までに、ARV治療を必要としている23万7千人のうち、4万4100人が治療を受けられるようになった。
-2007年の政府の目標は、ARV治療を受けている人の数を9万5千人にまで増やすことである。
-医師と看護師の数をWHOが推奨する水準にまで引き上げるには、7倍近くまで増やさなければならない。
-モザンビークで医療に従事している医師608人のうち、およそ半数が首都マプトで活動しているため、農村部の医療機関は医師不足に陥っている。
-医療従事者の数が減る主な理由は本人の死亡で、その多くがHIV/エイズに起因しており、公式発表でも毎年およそ2百人が亡くなっている。
-人員不足の医療機関にも患者が殺到し、スタッフと治療の順番を待つ患者の両方に大きな負担がかかっている。賃金の低さが意欲の低下、労働時間の短縮、頻繁な欠勤を招いている。
-MSFが活動しているマバラン地域では、患者はエイズ治療を開始するまで最長で2ヵ月も待たねばならない。臨床医や看護師が不足しているためである。治療を待つ間に亡くなる患者も数多い。
4.マラウイ
-マラウイには、WHOが推奨する数のたった10%の医師と、40%の看護師しかいない。
-マラウイで活動している165人の医師のうち、およそ半数は中心部の病院で働いているため、農村部では深刻な医師不足に陥っている。
-農村部での看護師の欠員率は60%にのぼる。
-MSFが活動しているチョロ地域では、1人の医療助手が1日に対応する患者数は2百人にのぼることもある。
MSFと人的資源不足
-この危機的状況に対応するため、MSFは追加のスタッフを雇用し、賃金を引き上げ、交代勤務を促進し、一般の人を訓練して新たな労働力を創出している。
-この報告書に登場するプログラムの多くで、一般や地域社会の人びとが重要な役割を果すようになってきていることは明らかである。彼らなしで治療を拡大していくことはできない。
提供者なき患者たち:緊急の対応が必要
-各国政府や援助資金拠出国は、危機的な人材不足への対応として、賃金引上げなどの短期的な手段に資金を提供することには大変消極的である。
-生涯にわたって続くARV治療への資金は提供するが、持続できないからという理由で医療従事者の賃金に資金を提供することを拒否するのは、矛盾している。
無用の死を防ぐために不可欠なこと:
-急速な人員減少の悪循環を絶つため、国家レベルでの緊急人員保持対策を展開する。
-賃金と労働条件を改善する。これには、国際的な援助が必要となる。
-専門家による委員会が、診療の範囲をはじめとする労働基準を設け、各国政府は、官僚主義ゆえに人びとが命を落とすことがないよう、より柔軟に対応する。看護師によるARV薬の処方を許可し、地域社会の人びとが予防、健康相談、治療のフォローなどにおける権限をもち、重要な存在として認められなければならない。
-援助資金拠出者に関する規則を変更し、賃金をはじめとする人件費の援助に資金を使えるようにしなくてはならない。
この報告書についてのリリースは→こちら
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