マラリア: 死に至る病と共に生きる
2007年04月27日掲載
「マラリアは乾季にはあまり見られませんが、雨季になると1日最大で50人の患者を診ることもあります。すでに雨季が始まっており、これからマラリアの感染者が多数出ることは間違いないでしょう。」
ロバート・アニク (25)、 国境なき医師団(MSF)のクリニカル・オフィサー(准医師)、ウガンダ
毎年世界中で百万以上の人びとがマラリアで命を落としている。なかでもアフリカの子どもたちが最大の被害者であり、全世界のマラリアによる死者の75%を占める。マラリアにより30秒に1人の割合で子どもが亡くなっている。母親もまた、マラリアの危険に晒されている。マラリアの流行地において、妊産婦死亡率のうち30%が、マラリアを直接的あるいは間接的な原因とするものである。
しかし、マラリアは多くの場合、予防、発見、治療が可能であり、本来はこのように命を落としてはならない。
MSF は、世界中で毎年2百万人以上のマラリア患者を治療している。MSFは熱帯地域で行うほぼ全てのプログラムにおいて、HIV/エイズ、基礎医療、性と生殖に関する健康に焦点を当てているにも関わらず、マラリアに直面している。
マラリアとは何か?
「マラリアには一度かかったことがあります。2003年のことでした。症状はとても重いものでした。深夜に発熱し、朝には歩けなくなっていました。当時、ここには医者がいませんでした。ボランティアはいましたが、本当の医者ではありませんでした。そこで私の兄と妻がすぐに病院に連れて行ってくれました。兄がバイクの後ろに私を乗せ、約50km離れた病院まで運んでくれました。到着までに8時間かかり、道中、水を5リットル飲みました。病院に着くと医者が注射をしてくれました。私は大量に排尿し、脊髄に激しい痛みを覚え、そのまま意識を失いました。」
マーティン・オケニー(40)、ウガンダ
死をもたらす危険性のあるマラリア原虫である熱帯熱マラリア原虫は、ハマダラカが人間の血を吸う際に人体に侵入する。ハマダラカに刺された後、9~14日でマラリアの症状が表れるが、この潜伏期間はマラリア原虫の種類により異なる。
通常マラリアは、発熱、頭痛、嘔吐やその他の風邪に似た症状を伴う。マラリアは学校や職場を長期に渡って欠席する主な原因となっている。重症の場合、子どもはひきつけや重い貧血を起こす場合もあり、また、治癒後も長期に渡って神経に影響が残る可能性 がある。その結果、失明や発語障害が生じ、子どもの発達や教育の機会に影響を及ぼす可能性もある。くわえて、妊婦は特に影響を受けやすい。
治療を行うためにマラリア原虫に効果的な薬が入手できなければ、感染は急速に進行し、命を落とす危険もある。
マラリアは治療可能:ACT
今日のアフリカにおいて最善のマラリア治療を行うための秘策はない。マラリア原虫が耐性を獲得するにつれ、クロロキンや、スルファドキシン-ピリメタミン (商品名「ファンシダール」) などの抗マラリア薬を用いた単剤療法は大幅にその効果を失った。現在は、アーテスネートなどのアルテミシニン誘導体による新たな併用療法が用いられている。
「MSFで活動する以前には、マラリア治療にクロロキンとファンシダールを使っていました。患者10人のうち約5人はこれらの薬に何の反応も示さず、症状をぶり返すため、これらの患者にはキニーネを処方し、重症患者にはキニーネを静脈注射していました。現在 はMSFの活動に参加していますが、クロロキンとファンシダールを服用している患者を今でも目にします。彼らは、これらの薬を服用しても症状が改善しないため、MSFの診療所を訪れるのです。MSFではアルテミシニンと他の抗マラリア薬を併用する治療法(ACT)に「コアルテム」を使用しています。これは大きな副作用のない良い薬です。ただし、高価なのが難点です。」
ロバート・アニク (25)、MSFのクリニカル・オフィサー(准医師)、ウガンダ
毒性が低い、副作用がほとんどない、マラリア原虫への反応が早いなど、ACTを用いる利点はよく知られており、科学的にも広く証明されている。
またACTは、第一選択治療として公的に承認されている。2001年、世界保健機構 (WHO)はACTをマラリアの推奨治療であると表明した。2004年、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)」は、効果がないことが明らかなマラリア治療にはこれ以上資金援助を行わないと発表した。現在、アフリカ54ヵ国の内41ヵ国が、正式にその治療方針を変更し、ACTをマラリアの第一選択治療としている。
MSFはすべてのプログラムでACTを採用しており、2001年から、アフリカ全土を対象とする多くの研究を通じて、従来の薬には高いレベルで耐性が生じていることを示すことで、ACT を推奨してきた。
マラリアは迅速診断検査により発見可能
迅速かつ正確に診断を行うことができる診断ツールも利用可能である。治療を必要とする人だけに薬を処方するようにするためには、このような診断ツールが不可欠である。診断ツールを用いずに患者を治療すると、医師は自らが認識する患者の状態によってではなく、推定に基づいて患者を治療することになる。
現在、これらの診断ツールには「パラチェック」のような血液検査キットなど、遠隔地での治療に適したものもある。これらは頑丈で、簡単に使用でき、検査結果が早く分かり、診断が容易なほか、医療従事者への特別な指導が不要で、大規模な器具や検査室を整備する必要もない。
MSF は、全てのマラリア治療プログラムにおいて、簡易検査もしくは検査室での顕微鏡検査による確定診断を採用している。しかし多くの場所ではこのように診断できない。
「診療所を訪れる人の大半はマラリアに感染しています。私たちは患者を臨床診断し、発熱、悪寒がある場合、または、食欲不振や吐き気がある場合は、恐らくマラリアに感染しているであろうとします。血液検査は行いません。ようやく検査室を開設しましたが、今はまだ検査助手もいません。また、パラチェックも使用していません。MSFの診療所では見たことはありますが、ここにはありません。保健省は、パラチェックは高価すぎるとしています。」
アイリーン、ウガンダ保健省の看護師
マラリアは予防可能
いくつかの有望な開発がされているものの、効果的なワクチン開発にはまだ数年かかる。しかし、この死に至る病と闘う他の方法がいくつかある。殺虫剤を染み込ませた蚊帳の中で眠れば、命を救うことができる。家屋にも殺虫剤を散布することができる。
残念ながら、特にアフリカに暮らす多くの子どもたちは、主に費用面の理由からこのような蚊帳の中で眠ることができず、このため未だにマラリアにより命を落とす者が後を絶たない。防虫措置を施した蚊帳がどの位の家庭で使用されているかを調査した最新のデータによると、アフリカ全土ではわずか5%であった。だが、アフリカ諸国の中には、蚊帳の使用を促進する試みに大きな進歩の兆しが見られる国もある。
それでも絶滅しないマラリア
1998年、マラリア撲滅のための世界的取り組みが発足した。2000年、WHO、国連児童基金(UNICEF)、世界銀行などが「ロールバック・マラリア 」(RBM)、マラリア対策 イニシアチブに着手し、2010年までにマラリアによる死亡数を半減すると公約した。
私たちは全く的外れなことをしている。
実際のところ、事態は一層悪化している。ロールバック・マラリアの創設から9年が経過したが、この世界的な死に至る病との闘いにおいて、流れが大きく変化した様子は見られない。ACT導入後の世界的な動向を明確に示すことは難しいが、既存の治療法への耐性が飛躍的に増加していることから、マラリアの広がりは止まらないと考えられる。
「娘の具合が悪いのでここに連れてきました。娘は下痢をしており、高熱でした。ここに到着すると、娘は体重と体温を測定され、血液検査を受け、マラリアだと診断されました。今は娘のために色々な錠剤を処方してもらい、とても満足しています。これから娘は良くなるのですから。」
ベティ・アカヨ (30)
彼女の娘、アティマンゴ・フィオナ・アカヨ (生後7ヵ月)、ウガンダ
しかし重大なのは、このように急速に改善されたマラリアの診断法と治療法の効果を、多くの地域で実感出来るのはまだ先だということである。MSF が活動している多くの地域において、MSFのプログラム以外でACTを用いるのはほぼ不可能である。ACTの需要は、全世界で推定3億から5億件の治療分があると推定される。それにも関わらず、昨年は全世界で9千万件未満の治療分の薬しか購入されていない。
この問題は診断にも影響を及ぼしている。今日多くの地域では、顕微鏡あるいは簡易検査によらず、一般的に臨床上の症状に基づいてのみマラリアを診断する。これは、しばしば誤診が起き、マラリアに感染していなくても抗マラリア薬を処方されることになる。MSFがスーダン南部で行った調査によると、10症例のうち7例が、マラリアと誤診された可能性があったことが判明した。これらの患者を必要なしに抗マラリア薬を用いて治療することは、発熱の本当の原因を見逃し、処置を施さずに放置することを意味する。MSFは、2003年に実施したプログラムにおいてマラリアの治療を施した2百万人以上の患者は、最初からマラリアであると正しく診断をして治療を行ったと確認している。
このように有望な診断ツールが存在するにもかかわらず、マラリアに関する統計は未だに絶望的である。MSF は、効果的な治療法が存在するにもかかわらず、この治療可能な病気により今も数百万の人びとが不必要に命を落としている原因について、現在調査を行っている。
MSFは4月25日のアフリカ・マラリア・デーに関連して、特集ページを作成いたしました。是非ご覧下さい。
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