ジェネリック薬の導入は、政変のため白紙に戻された
2005年09月21日掲載
2005年4月、エクアドルではルシオ・グティエレス前大統領が国を捨て、アルフレド・パラシオが大統領職 につくことになった。国境なき医師団(MSF)の同国における活動責任者、ヘマ・ドミンゲスは、この政変を目の当たりにし、政権の交代自体は比較的平穏に 進められたが、HIV/エイズ患者に大きな影響が及んでいると語る。
突然の政権交代
4月に首都キトでデモがあったとき、MSFは遠く離れたグアヤキル市で、HIV/エイズ患者の看護と治療、そして性と生殖に関する健康のためのプロ グラムを実施していた。突然の政変は、非常に弱い立場におかれているエクアドルのHIV/エイズ患者の不安を掻き立てた。ドミンゲスは「過去にほかの国々 で見てきた政変と比べて、すべてが非常に平和的に行われたことに驚きました。もしかすると前政権は当初、事態の変化を甘く見るという失敗を犯してしまった のかもしれません。」と語る。
政権が交代すると、引き継ぎされない業務が常に発生する。「前の保健省とMSFは、エイズ患者の治療にジェネリックの抗レトロウイルス(ARV)薬 を使うことを可能にする合意書に署名する予定でした。政局の変化に合わせて、私たちは手続きを速めてできるだけ早く署名を済ませ、新しい政府ができる前に すべてを終わらせようと努力したのですが・・・。」とドミンゲスは言う。
ジェネリック薬はいつになったら使えるのか?
エクアドルで承認されていない薬を使うことはできない。ドミンゲスは次のように心配していた。「この国で承認されていないため、MSFは良質で安い ARV薬を輸入することができませんでした。そのため、ARV治療を去年の7月に開始して以来、ジェネリック薬よりずっと高価な特許薬を買わなければなら なかったのです。MSFだけでなく、医薬品の在庫不足にしばしば悩まされている保健省にとっても負担になっていました。」
この時点で、問題の解決は政府とジェネリック薬の輸出業者の手にゆだねられていた。ドミンゲスは説明する。「保健省は当初、ジェネリック薬の輸入と 承認の促進を優先事項と考えてはいませんでした。ジェネリック薬の輸出業者も、利益が少ないためにそれほど興味を持っていませんでした。そして、私たちが 輸入手続きをスピードアップしようとがんばっているときに、政権が突然代わってしまったのです。結局、すべての交渉を最初からやり直さなければならなくな りました。」
グアヤキルでのMSFプロジェクトには450人の患者がおり、そのうち150人がARV治療を受けている。毎月、10人の患者が新たにARV治療を 開始している。ジェネリックARV薬は、承認、販売を可能にする手続きが進められているとはいえ、実際に手に入るようになるのは今年の末になってからであ る。MSFはそのため、手続きが完了する前にジェネリック薬を輸入し、7月か8月には患者の治療に使えるよう、政府に特別許可を申請していた。「しかしそ れは前政権とのあいだの話でした。政府が新しくなって、すべてが白紙に戻され、私たちはまた同じ話を繰り返さなくてはならなくなりました。許可は延期され 続けています。話が進められているとはいえ、今もジェネリック薬の輸入を許可する書類を待たされているのです。最終的には許可されると思いますが、状況が 状況なので、それがいつになるかが問題です。また、新政府がジェネリック薬の購入手続きを明確に決めていないことも問題です。」
治療薬の問題に加えて、エクアドルのエイズ患者は多くの面で不利益を被っている。たとえば国によるHIVプログラムは、キト、グアヤキル、クエンカ の3つの都市でしか実施されていない。これ以外の場所に住むHIV陽性の人は、治療を受けるために長い距離を移動しなくてはならない。ドミンゲスは「患者 の数に比べて、治療が大幅に不足していることは明らかです。私たちは、治療を必要とする人が総合的な医療を受けられるようになるよう支援しています。」と 言う。「もう1つの障害は、この国ではMSFの患者を除いて皆、HIV検査を受けるためにお金を払い、確認検査のためにもう一度お金を払わなければならな いことです。そのために多くの人が検査を受けるのをやめてしまいます。また、HIV陽性であると告知されることを恐れている人も多くいます。治療が必要と いうことになったら、たいへんなお金がかかるからです。さらに大きな問題は、HIV感染者に対する差別です。HIVが公けに語られるようになったのは比較 的最近で、感染者数の増加は多くの人にショックを与えています。一般的にはまだ、偏見を持っている人が多いのです。」
単なる治療に留まらない総合的なプログラム
将来MSFが活動を終え、プロジェクトをエクアドルの保健省に引き継いだとき、彼らが患者のための総合的な医療とエイズ治療の提供を保障できると思 うかどうかについて、ドミンゲスは現時点での可能性をきっぱり否定したあと、こうつけ加えた。「どうなるかはまだ分かりません。MSFのプロジェクトが始 まってから、まだ1年と少々です。総合的なプログラムには、単なる治療以上のものが必要です。現在の国のエイズプログラムは、それ自体、保健省の特別事業 のようになっていて、プライマリー・ヘルスケアプログラムや母子保健プログラムとの連携はありません。グアヤキルにおけるMSFのHIV/エイズプロジェ クトは5年間の予定で行われています。その後は保健省が引き継いで、患者により良い医療を提供しようという意思を持ち、国家プログラムを推進し、制度的な 透明性を保障していかなければなりません。MSFの目標は、患者がこれ以上苦しむことのないよう、今回のような政治的危機が起きても持ちこたえられるよう なプログラムを確立することです。」
ドミンゲスはまた、治療を受ける権利を剥奪されている患者の証言をMSFが集めていることについても話した。医師の中には、自分の病院で治療費を請 求できるよう、公立の医療施設から患者を移動させてしまう者がいる。また近頃、国家エイズプログラムの正式な登録を通じて、すでに亡くなった患者に薬が送 られていたことが発覚した。このような腐敗は、エクアドルのエイズ患者をさらに弱い立場へと追いやるだけである。現在のところ病院に会計監査は入っていな いが、それが変わる可能性はある。差別に関しては、エクアドル企業の中には、HIV検査を受けることを求職者に要求している会社があるという証拠がある。 「これは絶対に受け入れられないことです。」と彼女は断言する。
今度は自由貿易協定が立ちはだかる
エクアドルの政権交代とは関わりなく、アンデス諸国とアメリカ合衆国のあいだの自由貿易協定は交渉の最終段階を迎えている。ドミンゲスは、知的所有 権に関する条項が、協定を結ぶ国にとって手ごろな価格の良質な医薬品の承認と入手の際の障害となることを懸念している。「影響は、交渉に加わっているすべ ての国でARVだけでなく、その他の必要不可欠な医薬品にも及ぶと思われます。医療を受ける機会はどんな商業取引よりも重要であるべきことを主張しなくて はなりません。」と警告する。
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