国境なき医師団 読書エッセイ・コンクール 入賞作発表!

2014年07月31日掲載

『妹は3歳』エッセイ・コンクール、入賞者発表!

国境なき医師団日本のスタッフが共同で執筆した『妹は3歳、村にお医者さんがいてくれたなら』を読んで、感じたことを綴ったエッセイをお寄せいただいたコンクール、この度、入賞者が決定しました。

いずれの作品も、人道援助の現場で起きていることに思いを馳せ、一人ひとりにできることは何か、自らの経験や言葉で表現していただいた、思いのこもった作品です。一作一作に目を通し、審査にあたったスタッフも、これからの活動の支えになる大きな力を頂きました。ご応募をいただいた全ての方々に、心より感謝申し上げます。

ここに、入賞作品をご紹介いたします。


<<サヘル・ローズ賞>>

「誓い」

星なつみ(20歳・学生)

今も思い出す。『国の境目が生死の境目であってはならない』というフレーズが心にぐさっと刺さって以来、国境なき医師団に憧れて医学部を目指していたあの頃。いよいよ受験生という春、あの東日本大震災が私の住む街を襲った。一瞬にして消え去った日常。当たり前の生活は、あまりに儚いものだった。

父は小さな診療所の医者だった。津波が襲った沿岸部の患者さんの安否が気がかりで、避難所を駆け回った。「先生、先生・・・」父を見つけた瞬間、涙を流した方の姿が脳裏に焼き付いて離れない。薬もなければ食料もない。何ができたわけでもない。ただ『寄り添う』ことの大きさを感じた。それと同時に、ついこないだまでは普通に家があって生活していた人が、救援物資であろうダボダボのジャージを着て体育館の床に座っているという事実がショックだった。誰しも、いとも簡単に援助を必要とする立場になりうるのだと知った。時折ニュースで見聞きする難民キャンプや紛争がいくばくか身近に感じられた。

このことが少なからず影響してだろうか、長期休暇の度に世界を見て回ることにしている。異国の地に降り立った瞬間の独特の雰囲気。都市の喧騒の裏に広がるスラム街、そして物乞いの子どもたち。カンボジアやインド、ケニアなどを旅し、感じるのは人々のエネルギー。どんな環境にあっても、強く生きんとする人々は美しい。人は外見や文化は違えど、根源的には同じ人間なのだ。太陽が昇ると起きて、食べて、排泄して、夜になれば寝る。嬉しいと笑い、悲しいと泣く。病気になれば治りたいと願い、苦しむ人を目の前にして、助けたいと思う。そして誰しも、今を懸命に生きている。

時に、突然の災害や長引く紛争、貧困が人々を弱らせる。私は、そんな弱った人々に寄り添える人間でありたい。懸命に命を燃やそうとする人々に、よどみない私の生をもってこたえる医師になりたい。

<<国境なき医師団賞>>

「かなえたい夢」

入澤里桜(17歳・高校3年生)

苦しんでいる人たちに救いの手を差し伸べることは、正しいことだ。しかし、その正しいことをするためにも、戦わなければいけない、そんな世界の現実を悲しく思った。もちろん、その戦いは、『悪者』との戦いではない。「避難民・難民」を生み出して平気でいられるもの。「栄養失調やHIVで苦しむ子供たち」を放って置けるもの。「顧みられない病気」や「心の傷」を生み出すもの。上手くは表現できないけれど、そんな、なにか大きなもの、と戦う国境なき医師団の方々の姿が、この本には描かれているように感じた。

この本の中で、私が最も印象に残った言葉は、エリック・ウアネス氏の「出会った人々と、救った人々は、あなたの世界観を広げてくれます。」という言葉だ。以前私も、途上国の医療活動に参加したことがあり、そのときに、似たようなことを感じたからだ。強烈なにおいや、濁った水、通じない言葉や、異なった風習、なにもかもが違うなかで、出会った人々。医師でも、看護師でもない私は、診療所を造るためのレンガを運んだり、手術に使う綿球を作ったりすることしかできなかった。そんなことしか出来ない高校生の私を、あたたかく受け入れてくれた現地の人たち。しかしその人たちのほとんどは医療を必要としている人たちだった。いまは何もできないけれど、将来、必ず、医師となり、ここに戻って来ようと思った。私を必要としてくれる人がいるところならば、どこへでも行こうと思った。

いまも世界のどこかで、苦しんでいる人がいる。国境なき医師団の方々の戦いは、まだ終わりそうにない。しかし、いつか必ず、私たちが、大きなものに打ち勝って、「医療・人道援助がいらなくなる日」が来ることを信じている。将来、国境なき医師団の活動に参加できる日を、私は夢見ている。

<<国境なき医師団賞>>

「世界の不条理な現実を変えるために私にできる小さな一歩」

野口武悟(35歳・大学教員)

本書『妹は3歳、村にお医者さんがいてくれたなら。』に出会い、国境なき医師団の詳しい活動内容を初めて知りました。しかも、「独立・中立・公平」の原則を掲げていても診療所が攻撃を受けるなど、絶えず、危険と隣り合わせの状況下で活動している医師団のみなさんの姿に触れて、何ともいえない感情を抱きました。それは、医師団のみなさんに対する敬服の念と、世界で多くの人たちがいのちの危険にさらされ続けている不条理な現実に対する憤りが混じった何とも複雑な感情です。

不条理な現実の多くは、貧困、女性や子どもの地位の低さ、宗教や政治の対立による紛争や戦争などによって引き起こされています。これらは、私たちがお互いの違いを認め合い、叡智を出して協力し合うことで解決できると私は信じています。そのためには、教育の果たす役割が大きいと考えます。日本で、そして世界各国で、本書で黒﨑伸子さんがいう「『忘れないこと』『よりそう気持ちをもつこと』」の大切さを学べるような教育が広がっていったら、時間はかかるかもしれませんが、不条理な現実を変え、「医療・人道援助がいらなくなる日」を実現する原動力になることでしょう。

このように考えるのは、私が大学で教師をし、次世代を担う若者たちの可能性を目の当たりにしているからかもしれません。彼らの洞察力と行動力は計りしれません。私がいますぐにできる小さな一歩として、この4月から、ゼミで本書をテキストにして学生たちと学び合っています。そのなかで、私たちが国境なき医師団のみなさんとともにできることは何かを考え、議論し、可能なことから実行に移していきたいと思っています。海の向こうにいる医療を求める人たちの思いによりそいながら。

<<未来につなぐ賞>>

「知ることの大切さ」

手島薫子(13歳・中学2年生)

緊迫した地域での医療活動をされている医師団の方々の話を読み、その中で、適切な治療を受けられず、重い病気にかかってしまう子供が大勢いて病気を予防するということすらできない状況を少しでも改善するために働いている姿に、感動しました。

自然災害や激しい紛争で逃げてくる避難民キャンプの実情は私が暮らしている日本での生活とは全く違った世界で、驚き、胸が痛みました。「私一人では何もできない」とか、「どう行動をおこして良いか分からない」とつい思いがちですが、まずは関心を持って注目して見つづけることが大切で、少しでも何か助けになることができないかを考えることが、その地域に住まないといけない人々の気持ちに近づくことなのではないかと思います。

この状況を劇的に良くすることは急には出来ないのかもしれません。紛争や自然災害や多くの事柄がからみあっているからです。ただし、私は一つの案として女性の学力向上や手に職をつけ自立して働くようにすることが必要なのだと考えます。宗教上の理由で女性の立場がせまく低い地域も多いと聞いていますが、同じ性別の同じ人間でありながらも生まれた地域で差が出てしまうのはおかしいと思います。子供の時から正しい知識と技術を持つことで、その人の人生が良い方向にむかうのではないでしょうか。

私は将来法律を学びたいと思っています。外国の法律も勉強し、女性の地位の向上のために仕事をしてみたいと思っています。

今も同じ地球上でおきていることを忘れず、今の自分ができること、将来の自分ができることを探していこうと思います。

<受賞者コメント>

サヘル・ローズ賞:星なつみさん
"世界の現実、人々の感情、そして過酷な環境の中に見いだされる心温まる出来事に、引き込まれるように読みました。いつか自分もそのフィールドに立ちたいと思っている者として、国境なき医師団のスタッフの方にこの気持ちをお伝えしたいと思い応募しました。
今、スタッフの方だけでなく全国の方に作品を読んでいただけるチャンスをいただいたと感じています。人生は長い航海のようだと聞いたことがあります。まだ羅針盤や海図がなかった時代、人は星の位置を手掛かりに大海原を渡っていました。夜空を見上げて自分が進むべき方向を定めたら、あとは必死にこぐのみです。
そして時々、また夜空の星を見て航路が間違っていないことを確認するのです。
今回の受賞は、私にとって星の位置を確かめるきっかけになりました。
これからしばらくオールをこいでいく元気がでました。"

国境なき医師団賞:入澤里桜さん
そこに医療がなければ簡単になくなってしまう命がある。逆に、そこに医療があれば、救える命がある。この本を読んで私は、医師になるという夢を、夢で終わらせてはいけないのだと、強く思いました。この本を、そしてこの賞を、私に授けてくれた国境なき医師団の方々に、心から感謝いたします。この賞は私に大きな自信を与えてくれました。医師となるという夢に、少しだけ、近づけたような気がします。本当に、ありがとうございました。

国境なき医師団賞:野口武悟さん
ゼミの学生と一緒に読み、ともに議論できるような本はないだろうかと探していたときに、偶然に出会ったのがこの本でした。私自身、国境なき医師団の存在は知っていましたが、この本を読んで、これほど厳しい環境下で日々一人ひとりの命に寄り添いながら活動しているとは想像以上でした。同時に、読み進めるうちに、医師団の活動を支えるために私にできることはないだろうかと考えていました。その思いや考えをまとめたものが今回応募したエッセイです。ここにまとめた思いや考えを、いま、そしてこれからも実践していきたいと思っています。

未来につなぐ賞:手島薫子さん
13歳の自分が、当たり前のように朝起きて、ご飯を食べて学校に行く。勉強や部活をして、夕飯を家族一緒に食べる。このように日々過ごしていることを、同じように世界中の子供たちが過ごすことができたらいいなと思って応募しました。 こういうふうになったらいいなという思いを込めて書いたので、受賞と聞いてとても嬉しいです。私がこれから出来ることをいつも心にとめて過ごしていきたいと思います。

<審査員から>

  • ゲスト審査員サヘル・ローズさん(女優・タレント) ゲスト審査員
    サヘル・ローズさん
    (女優・タレント)
    星さんと入澤さんの作品はどちらも素晴らしい文章力で、読んでいるこちら側まで痛みや心境が伝わりました。自分の経験をもとに書かれていたのはとても良かったです。サヘル・ローズ賞に選んだ『誓い』は、ご自身やご家族を通して経験された事を率直に書かれた説得力のあるコトバで溢れています。誰しもが難民になりうる。誰しもが医療を必要としている。東日本大震災は様々な傷つきもあり、気づきもありました。それを平和な日本で生活している私達は忘れてはいけない。人間はみな、同じく、人間から産まれてくる。そこに本当は違いはあってはならない。ぜひ、これからもそのココロを持ち続けて下さい。
    『知ることの大切さ』は、13歳とは思えないほどの感性。「感心をもつこと」と「女性が学力や手に職をつけて自立する」ことの大切さ。私もよく思う事です。満足のいく学習が行き届かなかったりする事は、現代社会の大きな問題点。学びたくても、環境が整っていない事があります。現状を変えるためには、環境の改善も大切だと改めて気づかせてくれた。
    正直、皆さんすべての作品が良かったです。このようにちゃんと感じたり、問題点を把握しているエッセイばかりで、入賞作を選ぶのが苦しかったほどです。ぜひ、夢を叶えて下さい。そして今日のそのキモチを忘れないで下さい。平和ボケはせずに他者を思いやるそんな人間に、皆さんならなれます。
    ココロの縁の下の力持ちに、私達もなっていかなければなりません。
    いまも、過酷な環境で活動されている多くの医師に敬意をはらいます。
    本当にありがとうございます。
  • 星さんは"国の境目が生死の境目であってはならない"というMSFのメッセージから医師をめざしたとのこと。その後、2011年東日本大震災の被災地に住む立場になり、より一層その意思を貫こうとされていることに、私たちも感動をしました。名取市は、私が震災2日後に避難所を訪問したところなので、もしかしたら、すれ違っていたかもしれないですね。どうぞ今の気持ちを忘れずに。海外の現場に触れて、将来に向かってしっかり歩んでいる姿にエールを送ります。 入澤さんの作品は、MSFの活動のニーズを生み出す背景にあるものを的確にとらえられています。「活動によって、経験から何かを学ぶ」というメッセージをちゃんと受け止めてもらえたことを嬉しく思いました。

    黒﨑伸子(国境なき医師団日本会長・外科医)

  • 遠い世界のことではあるけれども自分と無関係な世界で起きているわけではないこと、厳しい環境にあるとはいえ何をしても無駄なわけではないこと、普通の生活を取り戻すためにできることはたくさんあること、健康を支えるためには医療だけでなく医療以外のスタッフや物資などがむしろ重要であることなど、知ってほしいなと思っていたことがちゃんと伝わっているだけでなく、もっといろいろなことを感じ、考えてくださったことがとてもうれしく思いました。 星さん、入澤さんの作品は、実際に途上国を訪れた時の体験を交えている部分に共感できましたし、その経験により広がった世界観は、医師や人道援助をめざすうえでもそれ以外でも、きっと自分を助けてくれると思うので、将来が楽しみです。また星さんが震災の経験をもとに途上国での難民に思いをはせた部分も印象的でした。

    酒匂赤人(内科医)

  • 皆様のエッセイを拝見し、それぞれ真剣に考えて下さっていることに、私も勇気づけられました。
    現実を知らなければリアリティのある理想は描けない。理想を描いてもアクションを取らなければ、何も変わらない。
    37歳の私が、シリアなどの人道援助の最前線でよく思うことです。
    「今も同じ地球上でおきていることを忘れず、今の自分ができること、将来の自分ができることを探していこうと思います」。13歳の手島さんのメッセージには、日本という恵まれた環境にいる私たちだからこそできることが集約されていると思います。

    村田慎二郎(現地活動責任者)

  • 野口さんの作品には、世界で起こっている様々な不条理に対する、衝撃や戸惑いが率直な感想として述べられていました。これらは、私たちスタッフが海外へ派遣された時に受けるものと同じだろうと感じます。現地での体験を言葉にして、自分以外の人に伝えていくことは、派遣されたスタッフとしてとても大切なことでもあります。しかし、現地の空気や肌感覚みたいなものを表現することは難しく、この本からそれらを少しでも感じて頂けたのなら、大変うれしいです。野口さんが、ご自分に何ができるのかを考え、今できる一歩をすでに始めている姿が素晴らしいと思いました。
    手島さんの作品は、読ませていただいて、胸がドキドキしました。この本を読んでの素直な思いが、そのまま語られていると感じました。13歳の手島さんが今感じたことを忘れずにいてくれたら、未来はきっと今よりも良い世界になっていると、期待したくなりました。この本を手に取ってくれて、ありがとうと伝えたいです。

    河野暁子(臨床心理士)

  • 縁の下の力持ちを理解してもらい、大きな視野でこの本を読んでもらい、そして読者の心の一部にとどまった小さな文章が縁となり、いろいろな形で世界で起こっていることに耳や目を傾けてもらえたら、興味をもち続けてもらえたらいいなと思います。そして、この本を5年後、10年後、15年後、20年後、みんなで読み返してみて、どんな世界になっているのか見てみたいものです。

    松本明子(看護師)

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