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顧みられない病」とMSFの取組み

シャーガス病

ブラジル人医師カルロス・シャーガスにより初めて発見されたこの寄生虫感染症は、海外旅行が盛んになるにつれてアメリカ合衆国やヨーロッパでの症例も報告されているが、ほとんどはアメリカ大陸で見受けられる。死に至る可能性が高いこの病気は、心臓系、神経系、消火器系に損傷を与える。

この病気は、ラテンアメリカの地方部や都市の貧しいスラム地区でよく見られる、壁の割れ目や泥でできた屋根、藁でできた家に住む吸血虫が媒介する。人間が感染しても数年間にわたり症状が出ないが、長い時間をかけて進行し慢性化すると、心臓、食道、結腸への回復不可能な損傷を与え、寿命を約10年縮める。心不全はシャーガス病に感染した成人に共通する死因である。

治療は感染の初期段階で行う必要があり、また治療薬は患者が小児の場合、急性かつ無症状の段階でのみ効果がある。診断は複雑であり、患者が寄生虫に感染しているかを判断するには医師が2~3度にわたって血液検査を行う必要がある。既存の治療薬は種類が限られており、現行の治療薬は毒性がある上に、治療完了までに2~3ヵ月かかる。成人の慢性的なシャーガス病には、対症療法しかなく根治法はない。

ボリビアとグアテマラにおける国境なき医師団(MSF)のシャーガス病治療プログラムは教育、予防方法、そして子どもたちへのスクリーニングと治療に重点を置いて活動を行っている。またMSFは必須医薬品キャンペーンを通じて、シャーガス病に関するさらなる研究開発を訴えている。

MSFは2006年、556人のシャーガス病患者を治療した。

コレラ

ギリシャ語で下痢を意味するコレラは、コレラ菌が原因の水系かつ急性の胃腸感染症であり、汚染された水や食物により拡大する。急速に拡大することもあり、また、突然大規模な集団発生が起こる場合もある。

コレラに感染した人びとの多くは軽い症状で済むが、迅速に治療を行わなければ、大量の水様性の下痢、嘔吐や脱水症状、そして死に至るなど非常に深刻な症状になる可能性もある。必要な治療は、水分補給用飲料を経口投与もしくは静脈投与して、体液と塩分の補充を迅速に行うことである。

MSFは迅速に援助を行えるようコレラ治療キットを開発し、コレラ流行が発生した地域にはコレラ治療センター(CTC)を設置する。コレラの抑制・予防には、安全な飲料水の十分な確保や厳密な衛生対策の実施が求められる。

MSFは2006年、8万8千732人のコレラ患者を治療した。

HIV/エイズ

ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は血液や体液により感染し、通常は3・0年かけて徐々に免疫システムを弱体化させ、そして後天性免疫不全症、つまりエイズを引き起こす。免疫システムが弱まるにつれ、カンジダ症や肺炎、さまざまな種類の腫瘍など、いくつもの日和見感染症に感染しうる。これらの中には治療可能なものもあるが、命を脅かすものもある。死に至る日和見感染症で最も多いのは結核である。多くの人びとは何年も症状がないまま過ごし、HIVに感染していると気づかない場合もある。簡単な血液検査により、HIV感染の有無を確認することができる。

抗レトロウイルス(ARV)薬として知られる薬の組み合わせは、HIVウイルスとの闘いを助け、免疫システムの劣化を遅らせ、人びとがより長く、健康的な生活を送ることを可能にする。これらの薬を1つの錠剤にまとめ、多剤混合薬の形にするのが、薬の正しく服用を続ける上で最も簡単で易しい方法である。MSFが行う包括的なHIV/エイズ治療プログラムには、人びとにHIVウイルスの拡大予防方法を伝える教育・啓発活動、コンドームの配布、HIV検査とその前後のカウンセリング、日和見感染症の治療と予防、母子感染予防、臨床段階が進んでいる患者へのARV薬の処方といった活動が含まれている。

MSFは2006年、HIV/エイズ患者17万8千人以上に治療を提供し、8万8千人以上にARV薬を用いた治療を行った。

アフリカ睡眠病(ねむり病)

ねむり病としてよく知られるこの寄生虫感染症は、サハラ以南のアフリカでみられ、ある種の熱帯ツェツェバエの吸血を通じて感染する。報告されるアフリカ睡眠病の症例の90%以上がトリパノソーマ・ブルーセイ・ガンビエンスという寄生虫が原因である。この寄生虫は中枢神経系を冒し、深刻な神経障害を引き起こし、治療を行わなければ死に至る。

この病気の初期段階では、発熱や体力の低下などの特別な症状はない。そのためこの段階では、感染の診断は困難だが、治療は比較的容易である。寄生虫が中枢神経系に達すると第2段階となる。感染者は、協調不全や精神錯乱、痙攣などの神経的、精神的症状を見せ始める。また夜間に睡眠困難となるが、代わりに昼間に睡魔に襲われることもある。

この第2段階で正確な診断を下すためには、髄液のサンプルを取る必要があり、また治療には痛みを伴う注射を毎日受けなければならない。アフリカ睡眠病の治療で最も用いられる薬は1949年に開発されたメラルソプロールであるが、多くの副作用を伴う。ヒ素誘導体であるこの薬は非常に毒性が強く、アフリカの一部地域においてはメラルソプロールを使用した患者の約30%は完治できなかった。また、この薬を使用した患者の約5%が亡くなった。エフロルニチンは、第4段階になるまでは用いることができず、治療スケジュールも複雑なため若干投与しにくいが、より安全なため、最近のMSFのプログラムではメラルソプロールの代替薬として用いられている。MSFは必須医薬品キャンペーンを通して、エフロルニチンの生産と供給を行うよう働きかけ、また、新たな用いやすい医薬品と正確な診断検査の研究開発を行うよう訴えている。

MSFは2006年、アフリカ睡眠病の患者1348人を治療プログラムに受け入れた。

カラアザール(内臓リーシュマニア症)

先進国ではほとんど知られていないが、リーシュマニア症は20種以上のリーシュマニアのうち一種が原因となる熱帯性の寄生虫感染症であり、ある種のサシチョウバエに刺されると感染する。最も重度なものは内臓リーシュマニア症で、ヒンドゥー語で「黒い熱」を意味するカラアザールという名前でも知られている。この病気の90%以上はバングラデシュ、ブラジル、インド、ネパール、スーダンで発生している。内臓リーシュマニア症は、治療を行わなければほぼ100%の確率で死亡する。

カラアザールは免疫システムを冒し、高熱、体重減少、貧血、脾臓の肥大を引き起こす。現在の診断方法は生体内の恒常性を乱す可能性があり危険を伴う上に、検査施設や検査専門家を必要とするなど、設備や人材の乏しい環境では容易に利用できず、多くの問題点を抱えている。治療には、痛みを伴う注射を30日間にわたり毎日行う必要がある。カラアザール治療に最も広く使用されている薬は、1930年代に開発されたスチボグルコン酸ナトリウム(SSG)であるが、これは比較的高価であり、中毒反応を示す患者もいる。

リーシュマニア症とHIVは両方とも免疫システムを冒し、弱化させるため、その脅威が大きくなりつつある。どちらか一方に感染するともう一方に対しての抵抗力が弱くなり、治療効果も下がる。

MSFは必須医薬品キャンペーンを通じて、この顧みられない病気を治療するための適切な診断技術と安価な治療薬のためのさらなる研究を訴えている。

MSFは2006年、5010人のカラアザール患者を治療した。

マラリア

4種類の寄生原虫が原因となるマラリアは、特に雨期の間に、原虫に感染した蚊が媒介する。主に貧しい地方部の地域社会、スラム地区の居住者や難民に感染する。症状には高熱、関節の痛み、頭痛、嘔吐の連続や痙攣、昏睡などがある。熱帯マラリア原虫によるマラリアは、治療を行わなければ死に至ることもある。

一般的にマラリアは、発熱や頭痛などの臨床症状のみに基づいて診断されている。現在、アフリカにおいて発熱を訴え、マラリア治療を受けている人びとの約半数は、実はマラリアに感染していない可能性がある。正確な診断は、顕微鏡で寄生虫の数を計測したり、迅速な尿検査により可能である。MSFのプログラムでは現在、診断にその両方を用いている。

治療には抗マラリア薬を用いる。かつては、安価で効果があり、副作用もほとんどないクロロキンが熱帯マラリア原虫によるマラリアの理想的な治療薬であった。しかし数十年が経ち、クロロキンの効果は大幅に減少した。MSFの実地調査により、現時点ではアルテミシニン誘導体と他の抗マラリア薬を併用する治療法(ACT)が、この種のマラリアに最も効果があることが判明している。MSFはアフリカ各国の政府に治療方針を変更し、ACTを採用するよう要請している。多くの政府は書類上は方針を変更したが、多くの場合、患者の元に治療薬はまだ届いていない。

MSFは2006年、180万人のマラリア患者を治療した。

髄膜炎

髄膜炎菌が原因となる髄膜炎菌性髄膜炎は、接触伝染し、死に至る可能性が高い髄膜の細菌感染病である。髄膜とは、脳や脊髄を囲む薄い膜である。人によっては感染しても症状が現れず、咳やくしゃみの際の呼吸の飛沫や咽頭からの分泌物を通じて、細菌を他人に伝播させる可能性がある。また人によっては感染すると、突然の激しい頭痛、高熱、吐き気や嘔吐、そして光への過敏症、肩こりなどが起こる場合もある。症状が現れて数時間内に死に至ることもある。

適切な治療を行わないと、細菌性髄膜炎の患者の半数が死亡する。このため、感染が疑われる症例は、髄液のサンプル検査で診断をし、さまざまな抗生物質を用いて治療を行う。たとえ抗生物質による治療を適切に行っても、髄膜炎の患者の5・0%は命を落とし、助かっても5人に1人もの患者が難聴や学習障害など様々な後遺症に苦しむ。

髄膜炎は世界中で散発的に発生しているが、感染例と死亡例の大多数はアフリカの、特にセネガルからエチオピアを東西に結ぶ帯状の地域で起きている。「髄膜炎ベルト」と呼ばれるこの地域では、定期的に髄膜炎が発生する。人びとをこの病気から守る方法はワクチン接種であるとされている。

MSFは2006年、5337人の髄膜炎患者を治療し、180万人にワクチン接種を行った。

結核

世界の人口の3分の1が現在、結核菌に感染している。毎年、9百万人が活動性結核を発症し、2百万人が命を落とす。そのうちの95%の人びとは貧困国で暮らしている。

この接触伝染性の疾患は肺に影響を与え、感染者が咳やくしゃみをしたり、会話をすると空気中に拡がる。全員が感染するわけではないが、感染すると、それがHIV陰性の人の場合その10%が生涯のいずれかの時点で活動性結核を発症し、しつこい咳、高熱、減量、胸痛、そして死に至るまでの間続く息切れに苦しむ。HIV感染者の間では、結核は一般的な日和見感染症でもあり、最大の死因である。

結核の治療薬は1950年代のものであり、一連の治療には6ヵ月かかる。しかし、不適切な治療の管理や治療薬の服用は、一般的に用いられる治療薬に耐性を持つ新しい型の細菌の発生につながる。薬物耐性結核の治療は不可能ではないが、その治療には多くの副作用を伴い、治療には最大で2年かかる。

MSFは2006年、2万9千人以上の結核患者を治療した。