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「脱医療化」でより多くの人に治療を
マラウイ地方部におけるHIV/エイズ治療の分散化

茶畑が青々と広がるマラウイ南部のチョロ州。若草色の茶畑には、散在する小さな村々をつなぐ赤茶けた細い路が走っている。チョロ州はマラウイの28地域中最もエイズの感染が深刻な地域と見られており、現在では住民の20%がHIV陽性であることが分かっている。

暗澹たる統計だが、MSFとマラウイ保健省(MOH)は協力して住民57万5千人のこの地域での治療に尽力している。マラウイ保健省は現在、HIV/エイズに対処する国家プログラムを行っており、患者に治療薬を供給している。MSFは1997年以来チョロ保健区域で活動し、HIV/エイズに苦しむ人びとに対する効果的なケアを組織・治療するのを支援してきた。

多くの成果を挙げたものの、特に治療を要する人びとが増えつつあるなか、治療を提供する効率的なシステムを確立するのは難しい課題である。HIV/エイズ教育、検査およびエイズ患者にとって致命的になり得る肺炎などの日和見感染症の効果的な治療によって、より多くの人びとが感染後も生き延びられるようになっているが、延命効果のある抗レトロウイルス(ARV)薬を緊急に必要としながら、治療を受けられずにいる患者は現在1万人以上にのぼる。

当初は国の方針として病院でしかARV薬の供給が行われず、特にその状況下ではHIV陽性の検査結果が出た患者全員にARV治療を施すのは困難であった。チョロ州には病院が2つあるが、ARV治療を必要とする何千人もの患者に対処するには著しく不十分である。また、病院を拠点とした治療は多くの患者にとって不便で煩わしいということも明らかになっている。徒歩で長距離を移動するのは、具合の悪い人びとにとって現実的ではない上に費用がかさむため、治療の中断はおろか開始もされない危険が増すのである。

最寄りの病院から25キロ離れたナミレムに住む患者はこう語る。 「ARV治療を受けようとして午前3時半に出発し、4時間懸命に歩いた後、9時半にチョロ病院に着きました。午後12時までグループカウンセリング室で待っていましたが、あまりに空腹で喉も渇いたので、何か少し食べるものを探しに市場に行きました。ところが戻ったらセッションはもう終わっていて、1週間後にまた来るように言われました。そのため私は何も得られずにまた4時間歩いて帰らなければならなかったのです。ARV治療を受けるにはチョロ病院までもう2回、歩いて来なければなりません。1度はグループカウンセリングのため、そしてもう1度また、個人カウンセリングを受けるためです。看護師は、これは私がARV治療を受けるかどうかの意思確認のためだと言いますが私はARV治療が本当に必要であることを既に十分理解していますし、薬を服用する準備はできています。ただ、薬を手に入れるまでが本当に大変なんです。」

ARV薬を得るためには通常、教育的なグループカウンセリングを受け、その後1週間、治療を受けるかどうか考える時間を与えられる。それから患者たちはARV薬の正しい服用方法を学ぶため、個別カウンセリングを受けに戻ってくる。病院でのこれらの活動で、多くの人びとは生計を立てるための貴重な時間を失う。小児科のカウンセリングの日には、母子ともに疲労しきって着くなりカウンセリング中に居眠りしてしまうのが日常茶飯事だった。車で移動すればより速く病院まで行くことができるが、多くの人は運賃を払えない。さらに雨期には未舗装の道路が泥道となり、倍も時間がかかったり運行停止したりすることが多い。

医療者の関わりを減らすことによる効果

2007年末までに1万人にARV治療を提供するという目標を設定したことで、新しいアプローチの必要性がはっきりした。「医療者が関わる部分を減らすことで、より多くの人を治療する」がMSFのモットーになった。集中治療が必要となるほど病気が進行する前に、より多くの人びとに薬を提供する必要があり、より速やかで煩わしくない、患者が利用しやすいシステムが必要である。

患者中心の医療を

これに対しMSFが出した答えは、ARV治療で安定した患者の経過診療を、病院から9ヵ所の地元医療施設に移行してARV治療を分散化するというものだった。

質の高い医療を維持するため、MSFはこの処置を受ける患者の基準や、医療施設に患者を受け入れる際に判断の目安となる病状などを見分けるための基準を作り上げた。ARV治療を行うスタッフは全員、研修を受けることが義務づけられ、MSFの移動診療チームの支援を受けている。MSFの移動診療チームは医療施設を巡回して治療の監督やカウンセリング、ARV薬の配布を行う。医療施設で活動を行うチームはMSFの支援を受けながら通常の経過診療を続けている。

このアプローチによって個人や地域社会の人びとがHIV/エイズ感染者の治療に関与を深め、HIVの「脱医療化」が促進されている。地域社会はこれを温かく受け入れ、地域のミーティングで錠剤を正しく服用しているか仲間同士で確認しあい、治療中のエイズ患者やHIV感染者の「治療開始前・開始後」を写した人生を肯定する写真を資料化するなど、一連の支援活動や革新的な活動を始めた。これらはHIV/エイズの否定的なイメージを改善する一助になっている。

現在は全国HIV感染者協会に関連した団体が形成され、2千人以上の加入者を擁している。メンバーはお互いに助け合う方法を見つけ、貧しく体調がすぐれない人びとのための野菜やトウモロコシ、魚介類の準備や、エイズ遺児のための職業訓練や収入を得る活動等のプログラムを行っている。このような地域社会の関与は分散化に向けたMSFの取り組みの追い風になっている。

人材不足

分散化がうまく機能していることは数字が示している。ある一つの村だけをみても、ARV治療を受けている患者は20人から150人に急増した。しかしこの新しいアプローチは独自の課題を伴う。最も深刻な問題は、適正かつ十分に訓練された医療従事者が不足していることである。アフリカ諸国の例に漏れず、マラウイでも人材が慢性的に不足している。マラウイで2005年に医学部を卒業したのはわずか16人で、そのうち1人しか国内には残っていない。研修を行う医師や准医師がいないため、政府はMSFが医療助手を対象にARV治療を施す研修を行うことを許可している。

本来医療施設のスタッフであった人びとが、分散化されたHIV対策活動に携わるようになり負担を感じているのは無理もない。彼らには他に多くの仕事があり、HIV対策は追加業務となる。一次医療、予防接種プログラム、研修、年次休暇中の同僚の埋め合わせなどの仕事がHIV対策のための仕事と重なり、その結果、医療施設はしばしば開業時間中に閉まってしまうことになる。医療スタッフの常習的な欠勤も問題で、原因の一端は低賃金との見方もある。MSFは労働量の増加に合わせて医療スタッフの賃金も引き上げているが、1人が1日にこなせる仕事量には限度がある。MSFの分散化に向けた努力において、人材不足は最大の障壁である。

医療インフラが不十分であるため、困難な状況が一層悪化している。ARV治療と一般の外来患者の診察を同時に同じ部屋で、多くのスタッフや患者が行き来するなか行うというのは守秘義務に触れる恐れがあり、医療施設内で同じ地域に住む他の患者と同席することに不満を漏らす患者もいる。間仕切りを置いて部屋を二分しようとしたが、そもそも狭いので必ずしもうまくいかない。9ヵ所の医療施設のうちいくつかは現在、改装や修復を行う必要があり、場合によっては増築して診療室を作る必要がある。今のところ、MSFは手持ちの資源で最善を尽くすのみである。

簡略化された治療法が鍵

現地の施設での治療が始まった現在、簡略化された治療法は分散化の基幹となるであろう。これは人材不足に対する最も実践的な対応であり、患者や介助者に可能な限り管理を任せるものだ。ARV薬は効果的でなければならず、かつ国際基準を満たし、1日2回服用の三剤混合薬という少なめの服用量で投与しやすく、割りやすいなど小児患者にも服用しやすいものでなければならない。さらに、このような資源の乏しい状況では、冷蔵不要で食事の時間とは無関係に服用できることが条件になる。

治療を簡略化する手段は他にもある。マラウイではCD4陽性細胞数(免疫機能の指標)を計る設備は稀少で、通常地方の施設では使用できない。検査所から遠いところで採取された血液検体は時として到着するまでに変質することが分かっており、1度の分析のために2度採血しなければならないこともある。

通常、ARV治療を始める条件としてCD4陽性細胞数が基準を下回っていることが求められるが、MSFのスタッフが診察する患者の多くは血液検査をするまでもなくARV治療開始の決定が下せるほど進行した臨床的症状(世界保健機関(WHO)が定める第3,4ステージ)を呈している。この環境下においては、詳細な病歴と診察はARV治療が必要かどうかの判断に際し信頼に足る方法である。

より多くの患者に治療をもたらし、より多くの命を救う

ARV治療の規模を拡大してより多くの患者を治療するというのは、患者数が増え続けるなか、難しい課題ではある。分散化は生易しいことではなく、患者に治療を施すには多額の費用もかかる。小児患者向けの診断ツールや治療薬、簡略化された治療プロトコル、治療薬を変える必要がある患者のための安価な第二選択薬の研究開発がなされれば、この活動を飛躍的に進展させる助けとなるであろうが、期待できる状況にはない。それでも我々の限界や資源面での多くの制約にもかかわらず、治療の分散化は、まさに文字通り治療なしでは生きられない人びとに治療をもたらすのに適した方法であることを証明しつつある。MSFのスタッフは必要な治療を受けることができた患者が見違えるほどの健康と活気を取り戻す様子を目の当たりにしている。ミロングウェにある分散化治療施設で、ある患者は語る。
「チョロでARV薬を入手しようと多額の資金を費やしましたが叶いませんでした。ARV薬を飲むようになった最初の2週間は素晴らしいものでした。違いを感じたのです。現在、私は人生を取り戻しつつあることを感じることができます。」

チョロ州で分散型治療に参加するには、患者は以下の条件を満たしていることが求められる。

  • 最低3ヵ月は第一選択薬の投薬を受けていること
  • 治療を順守すること
  • 日和見感染症に感染しておらず、ARV治療を受けて病状が安定していること
  • 特定の心理社会的な問題がないこと
  • 主要なARV診療所から10キロ以上離れた場所に住み、ARV治療を提供できる医療施設に近いこと