ノーベル平和賞

目的も手段も誤った人道援助――スーダンの事例

スーダンの紛争は今なお続き、
大勢の人びとが難民となっている(2012年)

先週、スーダン南部を支配する反政府勢力へ食糧を直接送付することを認める議案が国連総会を通過しましたが、これは人道援助としての手段も目的も誤った行為です。この食糧支援が内戦を一層激しくするでしょう。数百万人を死に至らしめたこの17年にもわたる内戦の終結のため、あらゆる政治手段を尽くさねばならないはずの国家が職務を怠っているのです。スーダンでは現在、内戦によって住み慣れた土地を追われた何百万もの人々が飢えと病気の危険にさらされており、大変悲惨な状況となっています。人々は絶え間なく爆撃を受け、強奪され、略奪され、奴隷にすらされています。企業に対してはオイル権益が守られていますが、人道援助活動の可能性は極めて限られています。私たち国境なき医師団、他のNGO、そして国連機関はここに人道援助や保護をもたらすため努力しているのです。内戦を激化しかねないこの食糧支援が政府の取れる唯一の策なのでしょうか。この支援は国家政策の道具にはなり得ません。私たちは本来の人道援助の手段を混乱させるこのような誠意のない食糧支援を非難しなければなりません。もし食糧が紛争の武器として用いられることになれば、飢餓すらも紛争の武器として正当化されることになるのです。

一人ひとりが困難な状況に置かれた他者に手を差し延べること

援助物資を運ぶヘリを誘導するMSFスタッフ(2012年)

私たちは独立した人道援助団体として、援助や保護を行うため毎日闘っています。私たちの活動の多くの部分において、それはメディアのスポットライトとは無縁のところで、また政治的に力あるものの注意を引くことなく行われ、忘れられた紛争や危険の中で毎日繰り返される辛い仕事に密着しています。本来豊かな天然資源や文化を持つはずのアフリカでは、多くの人々が困難な状況に置かれています。私たちと同世代の数十万の人々が、仕事や食糧を得るため、子どもに教育を受けさせるため、生きるためにやむをえず自分の国や家族から離れて生活しています。命をかけて不法に他国への入国を試みても、結局不法滞在者収容施設に入れられてしまうか、さもなくばいわゆる“文明”社会から締め出されて生きてゆくしかない人びとも多いのです。

国境なき医師団のボランティアやスタッフは、人間としての尊厳がおびやかされた人びとの中で日々生活し、活動しています。彼らは自分のもつ自由な世界をもっと住みやすい場所にするために使いたいと考え、この仕事を希望しました。世界秩序といった大きな議論はともかくとして、人道的な行為とはこういうことです。一人ひとりが困難な状況に置かれた他者に手を差し延べること。それはあるときは包帯の1巻きとなり、あるときは縫合の1針となり、あるときはワクチンの1接種となるのです。国境なき医師団は紛争中の20か国を含む世界80か国以上で活動しており、そこで目撃した不正を世界に訴える役割も果たしています。すべて暴力と破壊のサイクルが永遠に続くものでないことを願ってのことです。

おわりに

このような素晴しい栄誉を賜わり、ここに再びノーベル賞委員会の皆様にお礼を申し上げます。世界中で人道援助活動を行う権利、そしてMSFが選んだ活動方針、すなわち拒否の倫理のうちに存在すること、率直であること、ボランティア精神の基本原則に深く与することを認めていただいたのです。そして、これらの理想を現実にするために日々闘っているボランティアや現地スタッフに心から感謝したいと思います。彼らは大変な苦しみを受けてきた世界にたとえほんの少しでも安らぎをもたらしてきました。彼らこそ国境なき医師団そのものです。重ねてお礼を申し上げます。