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薬の入手を阻む壁の克服

医薬品を購入する財政・経済的余裕がない途上国では、何百万もの人びとが、治療や苦痛の緩和に必要な薬(必須医薬品)を手に入れられない状況におかれています。
必須医薬品を入手できない理由は多岐にわたります。例えば、物資の供給・保管など物流面での問題、薬の質が悪いこと、保健医療設備が整っていないこと、資金や人材の不足などです。中でも、薬の価格の高さが最も大きな壁の1つとなっています。
薬価の問題は深刻なHIV/エイズ危機が起きたことで注目されるようになりました。しかし、決してHIV/エイズに限ったことではありません。あらゆる種類の病気の治療・検査・予防に必要な新薬や診断ツール、ワクチンなどにも同じことが言えます。命を救うための必須医薬品や医療ツールは、たいていの場合、途上国の患者には手の届かない価格が付けられています。つまり、何百万もの人びとが貧しさゆえに治療を受けられないのです。
国境なき医師団(MSF)は、患者に対して可能な限り最良の治療を行うための取り組みの一環として、1999年に必須医薬品キャンペーンを立ち上げました。必須医薬品の入手を妨げる政治的・商業的障壁を監視することが目的です。そのために、薬価をつり上げている主因である特許や知的財産権に関する専門的知識を高めてきました。
必須医薬品キャンペーンはこの分野において、必要な治療の妨げになっている法制度を明らかにし、それらを克服する方法を模索しています。HIV/エイズ治療に使われる抗レトロウイルス薬の価格について分析した報告書『薬価引き下げの謎を解く』(2012年7月発表)などで、特許権やその他の知的財産権が薬価に与える影響についてまとめ、特許の乱用や特許問題の論争、必須医薬品の入手に深くかかわる国際的な展開への関心を喚起しています。
また、必須医薬品の入手が妨げられる恐れがある場合には、市民の意識を高めるために国際的な運動を起こします。各国政府や世界保健機関(WHO)など諸機関に対し、特許にかかわる問題を解決するため、即時的かつ長期的に持続可能な解決策の実践と維持を働きかけます。また、すべての人びとが必須医薬品を入手できる機会を育むように呼びかけています。
課題と提言
特許の影響とは?

特許制度の裏には、発明者に対し、新しい製品を市場に出して利益を得る期間を20年、またはそれ以上与えることで、技術革新を促そうという考え方があります。しかし、医薬品に関してこの原理はどう働くのでしょうか? 特許が与えられる医薬品と与えられない医薬品の違いは何でしょう? 企業が医薬品の特許を持つことは、何を意味するのでしょう? 特許は避けられるものなのでしょうか?
特許によって薬の価格は高止まりし、安価な薬を入手する妨げとなります。途上国では、人びとは通常、薬代を自費で支払います。健康保険に加入している人もほとんどいないため、薬の価格は命に関わる問題です。特許をなくし、安価なジェネリック薬(後発薬)を製造している製薬会社間で競争が起きれば、薬価に大きな影響を与えることができます。
市場原理に基づく過去10年の競争で、数種類のHIV治療薬の価格が99%引き下げられました。しかし、インド、ブラジル、タイなど強力なジェネリック産業を擁する国々で、医薬品への特許付与の事例が増えており、将来は厳しい見通しです。
特許の壁を乗り越える
自発的措置
特許がもたらす影響を和らげる自発的措置があります。例えば、製薬会社が途上国に対し、その国の支払い能力や、財政状況・死亡率・疾患率などによる“疾病負荷”に基づいて薬価を割引することがあります。
また、特許の所有者が他の製薬会社に自発的にライセンスを付与することもあります。この場合、2者間で直接的に契約されるケースがあるほか、ロイヤリティーの支払いを条件に薬の製造と輸出を許可する“特許プール”と呼ばれる新しい仕組みを利用することもあります。
医薬品の入手を促すための自発的措置は、その実質的な効果にかなりばらつきがあります。真の変革につながる手法がある一方で、多くのケースはあまり効果を期待できません。
強制的措置
特許所有者の善意に頼ることだけが、特許の壁を乗り越える唯一の方法ではありません。強制的な措置がとられることもあります。国際貿易の規則には、特許が公衆衛生の障害とならないように、各国が法的手段に訴えることを認めています。各国政府は、特許を付与する/付与しないという基準を特許法で定義しています。申請の段階でも、特許が付与された後でも、法的な異議申し立てが可能です。
また、患者の命をつなぐ重要な医薬品が特許で保護され、安価に手に入らない場合、政府は「特許の強制実施権」を発動できます。特許権者に対し、第3者が特許発明を利用することを強制的に認めさせ、安価なジェネリック薬の製造を促すのです。これは国際法上で認められている権利です。
TRIPS協定/TRIPSプラス/ドーハ宣言
「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS協定)」では、医薬品などへの特許付与を巡る多くの規定を定めています。こうした規定が公衆衛生に負の効果を与えていることがわかり、2001年、TRIPS加盟国が、特許保護の義務よりも公衆衛生上の利益を重視できるようにする目的で「ドーハ宣言」が採択されました。しかし、過去10年の貿易交渉で、多くの途上国はTRIPS協定よりも厳しい規定(TRIPSプラス)を実施するように圧力をかけられています。
安価な医薬品確保への闘い
医薬品の入手に関する問題点への関心の高まりは、エイズ危機の深刻化がきっかけでした。特に、南アフリカ共和国のネルソン・マンデラ元大統領が、国民の治療のためにより安価な医薬品を輸入しようとしたことに対し、40社の製薬会社が阻止を試み、結果的に失敗したケースには大きな注目が集まりました。それ以来、各国政府や市民団体が医薬品の確保のために闘っており、公衆衛生政策において重要な役割を果たし続けています。
一方、インドが医薬品に特許を与え、安価なジェネリック薬の製造が困難になった出来事は、大きな衝撃として受け止められました。世界貿易機関(WTO)や世界保健機関(WHO)の加盟国間では、公衆衛生対策を守り、医薬品を手に入れやすくする革新的な仕組みを作り上げるという政府間合意が交わされています。しかし、その実効性にはばらつきが見られます。
いま求められていること
ジェネリック薬の製造国の中でも、ブラジル、インド、タイは、TRIPSプラスを実施するように求める先進国や製薬会社からの圧力にさらされています。しかし、ジェネリック薬の製造国は、自国の法的能力を最大限に活用し、最貧地域の人びとでも医薬品を確実に手に入れられるように努める必要があります。自発的ライセンス契約、強制実施権の発動、自由貿易協定上の有害規定の阻止、特許法や知的財産規制の柔軟な運用など、できることはたくさんあります。
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