HIV/エイズ

国境なき医師団は1990年代にHIV/エイズに感染した人びとの治療に着手し、2000年にはカメルーンタイ南アフリカ共和国で抗レトロウイルス薬(ARV)治療の提供を開始しました。現在は23ヵ国でHIV/エイズ治療プログラムを展開し、22万人以上の患者に治療を提供しています。また、母子感染を減らすための母親への治療と、出産直前、また直後の子どもへの治療にも力を入れています。

さらに、特許権や知的財産権といった政策的な“障壁”によって薬の価格が高騰し、ジェネリック版のHIV治療薬のような入手しやすい医薬品が手に入らなくなる問題にも取り組んでいます。

課題と提言

国際社会からの資金提供が減少

近年、世界的なHIV/エイズ問題に対する国際的な資金拠出者の動きが停滞し、資金提供が減少しています。世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)と米国政府による「大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)は厳しい資金難に直面。2015年までに1500万人を治療するという目標の達成に、実質的な影響が出ています。

2010年末までに600万人以上が治療を受けた一方、900万人近くが緊急に必要な治療を受けられず、数年内に命を落とす危険にさらされています。

HIVの治療は、患者の命を救うことに加え、他者への感染リスクも激減させることが科学的に証明されています。すべての患者への治療提供が早急に求められています。

予防の観点からの治療

HIV治療はHIV予防でもあります。HIV治療を通じで、ウイルスの拡散を防ぐことができるのです。こうした事実からも、すべての患者が治療を受けられるようにすることが急務です。

HIV治療で、妊娠中や出産時、授乳を通じた母子感染も予防できることは周知の事実です。母子感染予防(PMTCT)戦略では、HIV陽性の妊婦とその赤ちゃんに抗レトロウイルス薬(ARV)治療を提供し、子どもへの感染防止を図っています。乳幼児の新たな感染を防ぐために、各国が世界保健機関(WHO)の指針に沿った対策を実行することが、極めて重要です。

より効果的な薬を使った早期治療を

HIVに感染しても、早期に治療を受けると健康を維持して生きられる可能性が高くなります。HIV患者の主要な死因である結核など、命にかかわる病気にかかる可能性も少ないでしょう。各国は、これまで以上に早期に患者の治療を始めることが重要です。治療薬の選択も重要です。過度の副作用を引き起こすスタブジンの使用を段階的に減らし、より副作用が少ないテノフォビルへ変えていくべきです。患者は副作用の少ない薬のほうが治療を続ける傾向があり、長期的に見ても有益です。

新薬の価格に手が届かない

HIV/エイズには完治させる方法がないため、患者は生涯、治療を続けなければなりません。副作用や薬への耐性が出ると、より効力の強い新しい薬を使う必要が生まれます。しかし、新薬は多くの患者が服用している「抗レトロウイルス薬(ARV)」よりも高額です。

第1選択薬のARVは、インドブラジル、タイなど、これらの薬に特許が与えられていない国々でジェネリック薬(後発薬)を製造できたために、過去10年間でその価格が99%下がりました。ところが、こうした国々でも新薬に特許が与えられるようになっています。

その場合、これまでのように安価なジェネリック薬を製造することができなくなり、薬価の減少が起こらなくなります。こうした新薬をより安価な形で入手するためには、各国が医薬品の特許を無効にするか、もしくは新薬の特許専売によって薬が高額に設定される問題を克服する別の方法を探し出さなければなりません。

HIVとともに生き、結核で亡くなる現実

HIV/エイズ患者にとって、亡くなる原因のトップは結核です。患者は免疫が弱まっており、結核を発症しやすいためです。HIV患者の結核診断は難しく、効果的な診断ツールもないことから、多くの患者が診断されないままとなっています。

薬剤耐性結核(DR-TB)の場合はさらに、診断も治療も困難です。DR-TBの治療薬には激しい副作用があり、治療を続けるのが難しいほどです。また、結核とHIVの治療薬が相互に影響しあうケースもあり、同時に服用できません。二重感染の患者の負荷を減らすためには、HIV治療と結核治療を統合し、患者が治療を続けられるようにすることが重要です。

コンゴ民主共和国:抗レトロウイルス(ARV)薬でポジティブな人生を

HIV/エイズの治療を受けている女性たちが、命をつなぐARV薬治療の大切さを世界中の人に伝えるために、ファッションショーを開きました。病気を世間に知られる不安を乗り越え、勇気を出してライトを浴びた彼女たちのメッセージを受け止めて下さい。

コンゴ民主共和国:抗レトロウイルス(ARV)薬でポジティブな人生を

治療を待ち望む子どもたち

HIVに感染した子どもの診断や治療は大きく遅れています。HIVに感染した子どもたちの90%は途上国に暮らしています。しかし、製薬会社にとって、途上国の子ども向けの医薬品は大きな利益が見込めないため、開発の動機づけにならないのです。

18ヵ月未満の乳幼児のHIV診断は困難です。子どもの血液に含まれる母親の抗体が診断テストに影響するためです。現在のところ、乳幼児に適用できるのはDNAを使った診断だけですが、この診断ツールは高価で、多くの途上国では使えません。

治療も複雑です。HIVの治療薬は子どもへの使用を認められていないものが多く、また子どもの使用に適した調剤もされていません。既存の小児用製剤は、限られた条件下で保管・管理することが難しく、飲みづらいため、子どもたちに投与することが難しいものになっています。

より多くの患者に治療を提供する方法

途上国でARV治療を拡大する上での大きな課題は、治療を受けられない患者をなくすことと、その地域の保健医療体制に大きな負担を課さないようにすることです。病院から地元の診療所へと治療の現場を移すことで、より多くの患者が治療を受け、また患者が長期にわたり治療を続ける助けとなることが証明されています。

医師の代わりに看護師や保健医療スタッフが薬の投与をなど行う「タスクシフティング」により、医療スタッフの不足が深刻な現場の負担を減らすことができます。HIVと結核の治療を統合することで診察回数を減らせます。また、同じ病気を抱える患者のカウンセリングを行う「エキスパート患者」など人びとが相互に援助する仕組みを作ることで、負担を軽減することができます。

技術革新の成果を途上国に

治療薬や診断ツールの革新は、治療可能な地域・患者を増やし、患者の病状変化を効果的に観察するうえで、早急に必要とされています。薬にかかるコストの大部分である原薬(API)の製造コストの引き下げや、原薬がその薬に使われる実際の量など、さまざまな工夫を試みることが薬価の引き下げにつながります。また、副作用の可能性も引き下げることになります。さらに、週1回あるいは月1回だけ服用されればよい製剤の研究・開発が進められています。

HIV/エイズや結核の診断には、頬の内側をこすって粘膜を採取する方法や指先から血液を採取する方法など、簡単に検査サンプルが採取できる使いやすいツールが開発されています。限られた条件下での治療を拡大するために、こうしたツールを早急に普及させる必要があります。